認識がゴロゴロひっくり返される喜び 〜大内正伸「植えない森づくり



朝方、檀家さんのおばあちゃんから夏野菜の差し入れ。


いつも一生懸命働いている大好きな檀家さんである。
今年は全体的に不作とのこと。良い果実を選んで持ってきて下さったらしく、トマトはどれも立派。一生懸命、トマトを選んでおられる姿が眼に浮かんで嬉しくなった。手に取ると懐かしいようなトマトの香りがした。




夕方から雨。時々強く降る。

雨の中買い物に行って国道を走っていたら、眼の前を一匹イノシシが横切った。まだ若いようだった。高速の近くで、車量も多いし、夜8時だというのに。

和歌山県新宮市の熊野速玉(はやたま)大社が所有する世界遺産の山林が無断伐採された問題で、跡地に植林して山林を復元する作業が先月19日から始まった。伐採した市森林組合が作業を担い、梅雨明けまでにアラカシ、ヤマザクラなど計約340本を植えた。元通りになるには20年から30年かかるとのこと。


だが…


伐採された区域は地元の方にとっては生い茂った樹木の為に日当たりが著しく悪く、懸案になっていたようだ。



日本各地で世界遺産の登録が増えている。
そのこと自体は喜ばしいが、地元にはマイナスの面もあるようだ。


また同じく世界遺産に認定された紀伊山系では観光客が増えたために、ハンターが狩猟を自粛した結果、獣害が激増した地域もあるとのこと。なかなか難しい問題である。



「植えない」森づくり―自然が教える新しい林業の姿

「植えない」森づくり―自然が教える新しい林業の姿



最近、かなり衝撃を受けたのが大内正伸『「植えない」森づくり―自然が教える新しい林業の姿』(農文協)。

とにかく啓発されること大にして多である。

田舎の山寺で暮らしていると少しは自然について分かった気になっていたが、自分の中の常識や思いこみがゴロゴロひっくり返されて快感である。





例えば第2章はマツ枯れの問題を指摘。


山の風景を見ると、所々に白骨のような枯死したマツが見える。

マツ枯れの原因は線虫とされていたのだが、事情はもっと複雑だという。


マツが砂浜や岩尾根のような貧栄養の地で逞しくそだっているのを見たことがあるだろう。
マツは貧栄養で育つ植物なのである。
かっての里山には沢山のマツが自生していたが、これは里山が貧栄養だったことを示す。




里山では樹木は薪として、落葉は堆肥として、持ち去られた。

里山が何か牧歌的な、豊かな世界のように語られることが多いが、古老によれば里山は「掃いたように綺麗」だったという

何のことはない有機物を徹底して搾取された自然の姿だったのである。

燃料革命や化学肥料の普及によって有機物が堆積し、土壌が富栄養化することで貧栄養に強いマツは逆に衰弱するようになった。

マツが元気だと樹脂を分泌して簡単には虫が繁殖できないが、山の富栄養化によって弱ったマツが容易に虫害を受けやすくなったのだという。

それだけではない。虫害対策として既に1000億円以上の薬剤が散布され、これがひとつの“利権”になることで、虫害をマツ枯れの原因として根強く支持されてきた可能性があると著者は指摘している。ありそうな話ではないか…
このマツ枯れ問題については他にも詳しい分析がいろいろありとにかく面白い。





<木を植える>とか<森づくり>というと非常に良いこととして語られる。

だが木を植え、森をつくるという発想は日本より遥かに降水が少なく、容易に木の生えないヨーロッパの風土からもたらされた思想であり、湿潤な日本ではほっておいてもどんどん、樹木が繁茂する。実際、周囲の山でも十年も放置すれば大量の雑木が生えてくる。これは田舎暮らしの常識だろう。

著者はむしろ何を伐って何を残すかという選択を賢く行うことによって自然をコントロールしていこうというのである。


山で暮らす愉しみと基本の技術

山で暮らす愉しみと基本の技術




前著「山で暮らす愉しみと基本の技術」は森林と生きる筆者の生活の知恵集という印象を受けたが、今回は新しい森林管理への提案を切り口として、日本林業の問題点、獣害対策、住宅問題、環境保全、自然のグランドデザインなどなど実に沢山の問題を論じている。
そこには不必要な抽象性は微塵もなく、ひたすら具体的に、いきいきと論じられている。




生活体験とフィールドワーク、学者や林業家との交流が盛り込まれた本書は実学の書であり、哲学の書、林業マニュアル、文明批判、行政批判…様々に読みこめるだろう。

まことに含蓄にあふれた一書である。
独特の味わいのあるイラストも健在で内容をより印象づけている。



もちろん本書は作者個人の体験と思索の書であり、その内容については検証や再検討の余地があるかもしれないが、自然と共生するということがあまりにも口当たりの良い言葉だけで語られがちな現代に、真摯な問いを投げかける素晴らしい一冊である。

関心の或る方は是非一読されたい。是非!



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「生きがいの創造」シリーズの著者である飯田史彦先生の講演会を舞鶴で開催することが決定いましました。
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[決定版]生きがいの創造

[決定版]生きがいの創造


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当山所蔵の快慶作“深沙大将立像”は7月16日から28日まで奈良の国立博物館に出展されます。その前後は不在となりますので、当山の仏像を拝観希望される方は御留意下さいませ。7月11日に搬出の予定です。
『天竺へ 三蔵法師3万キロの旅』
http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2011toku/tenjiku/tenjiku_index.html