お葬式の話


 お葬式でお坊さんが唱えるお経や作法の意味は一般の人には分からないだろう。

 前にも少し書いたがお坊さんになる儀式を灌頂(伝法灌頂)という。

 お葬式の本来の形は灌頂を行って亡くなった人をお坊さんにする儀式なのである。
 (宗派や地域によって違いはあると思う。念の為)

 例えば戒名というのは死んだ人に与える名前だと思われがちだが、お坊さんになるには様々な戒律(きまりごと)を守ることを誓約してお坊さんになるので、それにたいし戒名=お坊さんの名前が与えられるのである。

 お棺の上に剃刀が置かれているのも、魔よけというだけでなく、剃髪のためでもあったらしい。住職(父)に話を聞くと、昔は亡くなった人の髪をそれで剃ることもあったという。

 最近は葬儀も簡略化されて、その宗派の中心となるお経を読むだけのことも多いが、私の地域では昔ながらの儀式の形が細々とではあるが残っている。

 先日は葬儀会社のホールではなく、自宅で葬儀が行われた。

 お棺が家を出るとき、主だった親族はワラジをはいて額に三角の紙でできたものをつける。諸行無常を説いた紙ののぼりをかかげられ、お棺の上には竹ざおに紙と木でできた天蓋というもの掲げる。その他にも位牌、御膳、提灯、松明など持った人々が葬儀の列を作る。

 自宅のすぐ前は山と田んぼが広がっていた。
 おそらく百年前とそう変わっていない風景だろうと思った。
 昔はこうした葬列を作って自宅から墓地まで歩いたという。
 今では自宅の玄関からすぐそばに止めた霊柩車まで、僅かな距離を歩くだけになった。

 私の家は祖父の代からお坊さんをしている。
 祖父は私の生まれる前に亡くなったが、きっとこの地で今と同じような風景の中で、葬儀の列に混じって歩いたのだと思うと不思議な感動を覚えた。