墓は人なり

今月はやや法事が多い。
4月の農繁期の前に年忌の法事を済ませたいと考えるお宅があるからである。

本日も何軒かの法事があった。車で田舎道を走ると、遠くの山に点々と白いコブシの花が白い絵の具を刷いたように見える。春らしい風景である。

コブシは比較的高い場所に自生していることが多い。
住職に言わせるとコブシの花は綺麗ではなく、遠めに見るに限るとのこと。


本日、或るお宅で法事の後、お墓参りに行くと、墓域の隅に何代か前の当主の墓が立っていた。

よく見ると棹石の側面にびっしりと文字が彫られている。亡くなった当主の略歴が彫られているのである。普通、棹石の側面に彫るのは俗名と建立者の氏名くらいである。

この棹石には出生地、生い立ち、妻の氏名と出自、当主の仕事ぶりなどが記され、当時のこの村の生活の一端が活き活きと分かるようである。棹石も淡い緑色で普通の御影石とは感じが違う。一代で財産を築いた方であると記されているので、それにふさわしい高価な石材で作られたお墓なのだろう。

このお墓は同じ方向から風雨が当たるらしく、雨にさらされる側面の文字は殆ど見えなくなっている。だが略歴を彫られた面はちょうど雨風が当たりにくく、しかも棹石の上に屋根型の石が置かれていたことも文字がはっきり残った理由らしかった。


よくぞ今までこの文字が残っていたなと思うと感慨深かった。少し時間ができたらこの文字を写させて頂き少し詳しく調べてみたいと思った。

人と地域に様々な歴史がある…当たり前のことだが、その実際の姿を眼にするとなんとも言えない不思議と感動を覚えるものである。