なぎら健壱氏の宗教心 

【今月の寺門興隆

お坊さん専門誌「寺門興隆」には各界の著名人が寺院や住職に提言・直言するというページがある。

今回はシンガーソングライターのなぎら健壱氏が大変興味深い体験を述べられていて非常に考えさせられるものがあった。「それは宗教心かもしれない」というのがこの文章のタイトルである。

或るテレビ番組の企画でなぎら氏は占い師に変装して街頭に出た。

占いを希望すると簡単なプロフィールなどをあらかじめ受付で記入する。なぎら氏はスタッフから隠しマイクを通じて依頼者の記入した家族構成や住所などを教えてもらって「占い」を行う。

なぎら氏は「あなたは西のほうから来られましたね」「お子さんは3人ですね」などとスタッフに教えられたプロフィールを「見事にいい当てる」のである。当然、依頼者は驚き、なぎら氏の言葉を面白いように信じる…

収録も終わりに近づいた時、初老の女性がなぎら氏の前に現れた。
住所や子供の数を当てたまでは良かったが、この女性は障害を持つ子供を抱えていたのである。そして、自分達がなぜこのような辛い目に遭うのか、信仰心が足りないのかといったことを切々と訴えたというのである。

そこからなぎら氏は自分の心に浮かぶ思いを女性にぶつけていく…このやりとりは大変興味深いのだが私が二人のやりとりを手短に紹介することはなぎら氏にもこの女性にも失礼な気がするので控えることにする。少なくともなぎら氏の言葉も態度はとても立派だと私には感じられた。

この女性との対話を終えてなぎら氏は自分が女性にかけた言葉は自分の心に既にあったものなのか、それとも何かがそっと助言してくれたのか分からないとしながらも、この時から自分に「宗教心らしきもの」が芽生えた…とこの文章を結んでおられる。



ところで腹が立つのはこの番組のディレクター氏である。

女性の問いに懸命に答えようとするなぎら氏に向かって「いいよ、なぎらさん、適当なこと言って帰しちゃえば」「いいよ、なぎらさん、もう終わりにしちゃって」というようなことを言い続けるのである…

テレビの持っている業の深さというものを改めて感じた。
なぎら氏もまたテレビという業界で生活の糧を得ているわけである。なぎら氏が全くの善人でこのディレクター氏が悪人というつもりもない。

私たちはごく普通にテレビを視るが、面白く、可笑しい番組の中にとんでもない不道徳や無責任や危険な考えが潜んでいることに気がつくことがある。そして私たちはいつの間にか相当このテレビの毒に蝕まれているのではないかというのが常々危惧するところである。

テレビの中には猛毒がある。それは口当たりの良い毒である。丁度、酸化したジャンクフードの油が身体にとてつもなく悪いといわれることに少し似ているかもしれない。

そうしたテレビの毒の中にあってなぎら氏に芽生えたものは何だったのか、少し考えてみる価値のあることだと思っている。