サルの盗み聞き


 【京都新聞観察日記】


 暫く前に山寺の近くに仕掛けてあったイノシシの捕獲檻に子供のイノシシが掛かっていた。体長は60cmほどである。
 子供のイノシシを瓜坊と言うことがあるが、確かに縦じまがあってとても可愛い。可哀想にと思っていたら、どうやったのか檻から忽然と消えていた。檻の隙間から逃げたのか、誰かが逃がしたのか…

 22日の京都新聞30面には「サルとの闘い最前線  農作物被害年々深刻に」という記事が掲載された。

 サルの被害は本当に深刻である。
 サルは学習能力が高く、農作物の収穫期を熟知している。取材を受けた農家の男性いわく

 「こちらの会話を盗み聞きしているかと思うほど、収穫期の直前にやられる」

 いくら学習能力が高くても盗み聞きは無理であろう…

 だが1年かけて育てた作物を収穫直前に盗られたり、面白半分で作物を傷めたりされると農家の方は本当にがっかりされるのである。山寺の畑も何度荒らされたことか…

 舞鶴の機械関係の業者さんの集まりである「舞鶴工業集積協議会」が開発した新兵器が「猿発見伝」なるシステムである。

 群れの中心となる成熟したメスに発信機付の首輪を取り付け、半径1キロ以内に近づくと地域に設置したランプが点灯し、音楽が流れるというもの。誤作動があったり、全ての群れに発信機が取り付けられていないなど欠点も多い。ところで一体この音楽とは何か気になる…

「おさるのかごや」とか「アイアイ」とか「プロゴルファー猿のテーマ」とか…

 檀家さんのいるエリアでは人間とサルの住むエリアの間に牛を放牧するということが試みられた。サルが大きな動物を警戒する習性を利用したものである。だが結局、サルは放牧地を回避して畑に侵入するようになってこちらも成果が上がっていない。

 サルと人間は住み分けしているというのは昔の話である。
 サルは人間の住むエリアの少し外側を周回しているようなのである。人間がいなければ作物を荒らし、人間が来れば山際など、人間の来ないエリアにちょっとだけ退避するということを繰り返していて、まるで毛沢東のゲリラ戦術を学習したかのようである。人間が里に住み、サルが山に住むという構図は成り立たなくなっているのである。

 年配の檀家さんによれば昔は野犬がたくさんいて、猿やイノシシの子供を襲うことが多く、人間と野生動物の中間地帯が守られていたとのことである、なかなか興味深い話だと思った。

 野生動物による農業の被害は本当に深刻である。
 抜本的対策が立てられなければ日本の農業の趨勢をも左右しかねないところまで来ている。山寺に住んで農家の方とお話しているとそのことがひしひしと感じられるのである。