日本の極宝『螺鈿紫檀五絃琵琶』
先日、奈良博の職員の方が深沙大将を出陳の為に来寺された時、お土産に昨年の正倉院展の図録を頂いた。表紙は『螺鈿紫檀五絃琵琶』である。
聖武天皇が56歳で逝去された後、光明皇后が天皇遺愛の品々600点以上と薬60点以上を東大寺に献納したのが正倉院の始まりである。
その正倉院が歴史上数多の戦乱と大戦の混乱と破壊を経て尚、数多の御物を現代に伝えていることは何か奇跡のように思われる。
中でも聖武天皇が愛用したという五絃の琵琶『螺鈿紫檀五絃琵琶』(らでんしたんごげんびわ)は絶品である。
初めて見た時の興奮と感動を忘れずにいる。
その名の示すとおり五本の絃を有する琵琶であり、現存する古代の五絃を有する琵琶としては世界で唯一の遺例である。槽(背面)はシタンの一材を刳って作り、鹿頸より絃門、海老尾にかけてもシタン製、腹板(正面)はシオジもしくはヤチダモを用いている。捍撥(撥受け)には褐色の部分の多い玳瑁(タイマイ)を貼り、ヤコウウガイを用いた螺鈿でフタコブラクダに乗り四絃琵琶を演奏する人物、及び熱帯の植物と飛鳥、岩と草花を表す。腹板には螺鈿と玳瑁による花文十三箇を整然と並べ、半月形の響孔開ける。槽は螺鈿と玳瑁による大小二箇の華麗な唐花文と含綬鳥、雲を表す。
(「平成22年第62回正倉院展図録」解説より)
淡々と特徴を記した一文からもこの名品の香気が伝わってくるようである。
特に背面の唐花文(からはなもん)の美しさは類を見ない。
どれほど科学技術が発達してもこうした名品を生み出すことはできない。
文化とか美というものが科学や文明とはかなり違う存在なのだと思わずにはいられない。
日本にはこうした文化の粋と言うべき品々が無数にある。
そのことをもっと多くの方に、とりわけ若い人達に知ってもらいたいと思う。
この作品をじっとみていると琵琶が何か生き物のように見えてくる。
正倉院の奥深く、この琵琶が人知れず鳴り出していたら…そんな空想が頭に浮かんだ。
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