鏡の好きな鳥 墨と硯
妻は動物が好きで、とりわけ鳥類に惹かれるという。
最近、ジョウビタキという鳥を庫裏の周りで見かけると教えてくれた。
ジョウビタキは鏡で自分の姿を見るのが好きだという。
そういわれて車のバックミラーに鳥のフンらしきものがついていたことが何回かあったことを思い出した。
ネットで調べるとジョウビタキは渡り鳥であるという。
鏡が好きというのは自分の姿に見惚れていたのではなく、自分の敵を警戒してのことらしい。ジョウビタキは縄張りを作って同種を排斥する習性があり、かなり攻撃性が強いらしい。
先日、霊場会の総会が奈良で開かれた。
総会の翌日は製墨業を営まれる“喜寿園”というお店を見学させて頂き、
御主人から親しくお話を聴かせて頂いた。
奈良県は全国の墨の生産量の90パーセント以上のシェアを占める。
後から調べると墨を作っている会社は奈良県内に僅か7つ。墨を作っている職人さんは全部で10人ほどであるとのこと。
その10人が全国シェアの90パーセントを作っているのだという。
墨の生産量は戦前にくらべれば数十分の1の生産量に下降しているとのことで
前途には厳しいものがあるという。
墨作りの工房を見学させていただいたあと乾燥させる前の墨を自分の手で成形させてもらった。ここでは自分の手形のついた“にぎり墨”をつくるという体験ができるのである。
大変に貴重な体験だが…
もったいなくて使う気にならない
使わなければ墨として用をなさないし…
墨は保管状態がよければ製造されてから長く置いたものは書き味が大変に良くなるとのこと。
硯についても本来は墨を磨るのに力がいらないものだといわれる。
「磨る」という言葉は「滑る」という言葉の親戚ではないかと思うのだが
若い御主人は端渓という上質な硯の上で滑るように墨をすっておられた。
考えてみると普段私は力任せにゴシゴシ、ギシギシとを墨を押し当てるようにして墨を磨っているではないか。
硯はきちんとメンテナンスすると使用感が格段に違うというが、そもそも硯をメンテナンスするという発想すらない。
はっきり言って論外である…
輸入された硯は破損防止の皮膜がついており、これをとらないと墨が下りないが、知らずにそのまま使っているユーザーも多いらしい。
長年、磨り減ったタイヤのまま車に乗っているようなものなのかもしれないが知らないというのは恐ろしいというか呑気というか…
こちらのお店は墨の製造が本来の生業だが
硯なども扱っておられて1000円ほどのごく安い硯から端渓などの高級品、中国にすら在庫のないようなものまで置いてあるという。
値札の無い硯を手にとって「5000円くらいなら買って帰ろう」と思って値段を調べてもらったら
14万円だった…
さらに奥に通されて「1400」という札がついていたので1400円かと思ったら…
商品番号だった…
重厚なガラスケースのなかにあったので
14万でも済まなさそうな気配だった。
墨の清々しい香り、同じものがひとつとしてない字形、書き手の存在が眼にうかぶ筆書きの文字というのは良いものである。
ワープロで文字を綴ることが主流になっても墨や筆や硯は無くなってほしくない存在である。
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