夜歩く者
嫁が山寺へ来て間もなくの頃、散歩がてらホタルを見に行った。
昔に比べて少なくなったとはいえ、遠くや近くの田んぼの上を舞っているホタルの光に嫁は歓声を上げた。
その帰り道、小川の傍を通った時、大きな獣の鳴き声(嫁の言葉を借りれば「バイクをふかすような音」)が
「ガルルルルルツッ…」
足元の小川の土手の暗がりから聞こえてきた!二人して一目散に逃げた。パニックになった嫁は「ライオン!」とつぶやいた。おまけに「私のほうが食べられる!太ってるし!」とまで言った…後から思えばあれはイノシシだったのだが、やはり野生の獣の迫力は凄いと思った。
先週、日が暮れてから家の勝手口から出ると、すぐ横のガレージの裏手から
「バキ…バキ…メキメキ…メキッ…」
大きな生き物が歩く音がする、小枝を踏み折りながら歩く音はなかなかの迫力である。暗がりから足音だけ聞こえてきて姿が見えないというのがかなりホラーな感じである。どう考えても熊である…家に入って時計を見るとまだ8時。家には明かりが煌々とついている。山の生き物にとって人家の明かりは最早、怖くもなんともないらしい。困ったことである。