奥深き禅の世界

山寺の玄関の前には常盤簪(ときわかんざし洋名ピラカンサ)が植えられている。
普通は生垣などに低く仕立てるのだが、鉄柱が横に添えられてぐんぐん上に伸び、6メートル以上になった。毎年この時期には全体に小さな赤い実を無数に付ける。

毎年、紅葉の時期におぜんざいを食べに来る初老の男性がいる。俳句をされていて毎年一句を残していかれる。去年は裏山の猿柿(柿の仲間だが、普通の柿より小さな実を沢山付ける)を詠まれたがその猿柿も雪で折れてしまった。
今年は常盤簪を詠まれたので頂いた短冊を玄関に掛けることにした。

この秋の 常盤簪 実の朱(あか)く


まだ紅葉は三分にも届かないが、裏山に何という樹なのか、葉が黄色に色付いた背の高い大きな樹がある。風が強く吹くたびにひらひら、ひらひらと黄色い葉が落ち続けている。時々、黄色い蝶々が飛んでくることがあり、遠目には黄色い木の葉が蝶ように見えることがある。

少し前、山寺に禅宗のお坊さん4名招待したことがあった。

同じ仏教でも他の宗派のことは全く分からないのが普通である。ウチは真言宗なので禅宗のことは全く分からない。住職は適当に席札(名前を書いた札)を置いて席に座ってもらった。だがこれが失敗であった。お坊さんというのは上下関係がかなりはっきりしている。しかし、この順位を決めるのがかなり難しいのだ。
まず年齢による上下、それからその人の持っている僧階(お坊さんの位)があり、さらに、そのお坊さんの居るお寺の格(本山かそうでないかなど)がある。結局、住職が決めた席順は上下が全く逆で一番偉い人を下座に座らせたことがあとで分かり、結構焦った。

ただ皆さんとても良い方で、お酒が入ったこともあり話は大いに盛り上がった。
 私は禅宗の方に一度聞いてみたいことがあった。それは「禅僧は一切音を立てずに食事をする。沢庵すら音を出さずに食べる」と子供の頃教えられたことがあって、そんなことが実際にできるのか不思議に思っていたのだった。一体、どうしたら沢庵を音を立てずに食べられるのかずっと謎であった、その方の答えは「食事の最後に沢庵を口に含んだまま退席し、廊下を歩きながら普通に音を立てて食べる」というものであった…やはり禅宗は奥が深い…