千両役者

 朝の犬の散歩は住職の日課なのだが、住職が風邪気味なので今日は私が犬を散歩に連れて行った。川を挟んで境内のすぐ横が公園になっている。もともとはお寺の境内地だったのだが、管理しきれなくなったので市に寄付して公園として整備されている。

 早朝に色づき始めた並木の中を犬と散歩しているととても気持ちが良い。朝は小鳥のさえずりがはっきりと聞きとれる。啄木鳥(キツツキ)が梢をついばむ音が良く聞こえて楽しい。

 公園から境内を見ると105段の石段の上に本堂がありその脇に、イチョウの大木があるのが良く見える。まわりのもみじが赤や黄、茶色に色が変わるなかで、イチョウの葉は青みがかった独特の色をしていて良く目立つ。どういったらいいのか、少し濡れたような冴えた色である。全山が紅葉する頃には、このイチョウの大木の葉が濃い黄色になり、そのコントラストがとても美しい。公園を毎日散歩されている方から「イチョウの色づきがまだまだですね」と声を掛けられた。
 本堂が一際高い場所にありまるで舞台に立つ千両役者と呼びたいくらいなのでこのイチョウを「千両銀杏(いちょう)」と呼ぶことにした。山吹色の無数の葉を小判に見立ててもいる。

 毎年、結構な量の銀杏が落ちるのだが、近年誰かが持っていくらしく、昔ほど取れなくなっている。千両役者の人気にも困ったものである…