山寺の泥棒

  私が本山に修行に行っている頃の話だが、山寺に泥棒が入った。

  当時は住職夫婦二人が山寺に住んでいた。

  真夜中、泥棒は勝手口の脇にあるトイレの窓から侵入し、その隣にある台所に入った。そのすぐ横の部屋で住職夫婦は寝ていた。

  ガタッ、ガタ、ガタッ…という物音。

  真夜中である。住職夫婦しか住んでいない家である。

  物音で眼を覚ました住職夫婦は二人そろってこう思ったそうである

     
     「息子がお寺の修行に耐えかねて帰ってきた」
  
 ドアを開けると見知らぬ大男が土足で台所に立っていた。

  泥棒いわく

     「お参りにきました…」

 真夜中に土足で入ってきてお参りはないだろっ!とツッコミたいところである(笑)

 結局、何も盗られず、住職夫婦も無事だった。

 ちなみにそれ以降、私が夜更かしして台所で夜食などを作っていると、母親が私の名前を呼ぶことがある。どうも泥棒じゃないことを確認しているようである(笑)それにしても修行にへこたれて逃げ出したと思われた私の立場って…