「言葉の国」の遺産

 ようやく雪が消えつつあると思ったら、新聞の予報欄には3日続けて雪マークが…

 寒いので生姜入り紅茶を飲もうとして、冷凍してあった生姜のすりおろしを取り出そうとしたら、庭で取れた柚子の皮を刻んで凍らせてあったのが眼についた。ためしにハチミツと柚子の皮のみじん切りを紅茶に入れてみたら、ふんわり柚子の香りがしてまことに美味しい。ちょっとした発見だった。そういえば韓国には柚子茶というよく似た飲み物があるのを思い出した。


 先日、花展に行ったとき、差し入れにシュークリームを持っていったら、先生から礼状が届いた。丁寧な字で「御水屋御見舞をありがとうございました」と書いてあった。「御水屋御見舞」とは綺麗な言葉だと感心した。


 私の嫌いな言葉に「主義」という言葉がある。
 世の中には、やたらと「××主義」という表現を振りかざす人がいる。平和主義なるものを唱えたら平和が来るとか、平和主義の反対に軍国主義というものが存在しているとか言う人達を見ていると、肉体を喪失して観念の世界で生きている人に見える。私はどうしてもこういう人達に共感をもてないのだ。


 29日のブログ「言葉の不思議な力」でオノマトペについて書いた。
 「ざぶざぶ」「ふんわり」「すたすた」「ぽっかり」「さらさら」…日本語は他の国の言葉と比べてこのオノマトペがとても豊富な言葉である。先日、刊行された「日本語オノマトペ辞典」(小学館)には4500語ものオノマトペが収録されているという。(「どんぶらこ」のように桃太郎という昔話の中でしか使わないオノマトペまである。この言葉も無理やり使ってみると面白いかもしれない「福田政権はどんぶらこどんぶらこと漂流していきました」とか…)


 私がオノマトペに関心があることと、この「主義」という言葉が嫌いであることはどうも裏表の関係であることに気がついた。

 オノマトペというのは体や心に響く感じがするのだ。
 逆に「主義」という観念的な言葉はとても冷たく、上滑りで、空しい感じがする。

 日本人は古来、とても繊細な言葉への感覚を持っていた。日本はおそらく千年以上にわたって世界一の識字率を誇った「言葉の国」である。

 今年は源氏物語の千年紀である。

 「源氏物語」は日本が世界に誇るべき素晴らしい言葉の遺産だが、日常の生活の中にあるオノマトペもまた大切な言葉の遺産であると思う。大切に使っていきたい。