山寺でエキストラ
去年の秋に地元の観光協会から電話がかかってきた。
テレビドラマの撮影に本堂を使わして欲しいという。
面倒なので
「ウチの本堂はボロですよ」
とお茶を濁そうとしたら、相手の男性は
すごく元気のいい声で
「ハイ、昭和20年代のイメージで探していますので!」
とはきはき答える。さすがにムカッときた(笑)
おまけにお坊さん役のエキストラとして出て欲しいとまで言う。
しぶしぶロケだけお受けして、エキストラのほうは丁重にお断りした。
私は撮影と聞いて二時間ドラマだろうと予想していた
「丹後湯けむり殺人紀行 凶器はカニのハサミ!?」
とかである。主演は船越英二郎か片平なぎさ。
ロケの打ち合わせに来たのはNHKの若いスタッフだった。NHKの特別ドラマだという。
ドラマの中の設定は真言宗のお寺である。ウチの地域には真言宗が非常に少ない。
私もいい歳なのだが、一番、キャリアが無い。下っ端である…他に依頼できる相手が無いことに気付いた。
しかたなく、エキストラの役を引き受けた。
撮影当日、○谷川○子という主演の女優さんはじめ大勢のスタッフが訪れた。
日本人女性と韓国人男性の恋愛と別離をめぐるドラマである。
主人公が大陸から引き揚げ、持ち帰った両親の遺骨を菩提寺に納骨するというシーンである。
だいたいウチのお寺の本堂で納骨の儀式というのは行わない。かなり戸惑った…
男性のお骨を本尊から見て右手に置くと言ったのだが、向かって右(つまり逆)に置いてあったことに 途中で気付いた。後で見るとアップで映されていた…
撮影一回目でOKは出たのだが、本堂から引き上げようとするとスタッフが青い顔して追いかけてきて「今、眼鏡かけてらっしゃいましたよね?」と言う。眼鏡が良くなかったらしく、眼鏡を外して再度、撮影。
撮影が終了し、御礼にといって持ってきたのはNHKのキャラクターグッズの詰め合わせである。随分安上がりな御礼である…それでも俳優、スタッフの皆さんとても礼儀正しい態度だったのでなかなか楽しい経験だった。(ちなみに主演の○谷川氏を私は全く知らなかった…)
ドラマの放映後、ウチの山寺にテレビが無いことを知っている友人がわざわざ録画したDVDを送ってくれた。
ドラマは意外に面白く主演の○谷川氏も熱演だった。
主題歌だったのがさだまさし氏の「かささぎ」(アルバム「Mist」収録)という歌でこれはとてもいい歌だった。最近、時々聞いている。(ちなみにかささぎは大韓民国の国鳥である)
心に沁みる、春に降る暖かい雨のような歌である。