山寺の或る日
ミツバツツジが咲き始めた。
春の風景には桃色のミツバツツジが良く似合う。今年は少し開花の時期が早い気がする。
この花もコブシと同じように山の中で見かける花である。
今日は兼務している山寺へ住職と出かけた。弁当持参である。
車幅一車線しかない山道を登っていった山奥にあるお寺である。
周囲には人家が僅かに2軒。
お寺の横に檀家さんの畑があり、ここを借りて、花を植えるのが住職の計画である。
10年近く手入れしていない畑は荒れていた…
イノシシの掘った穴があちこちにクレーターのように口を開けている。
時々、イノシシの排泄物の臭いがするので、よくここに来ていることが分かる。
まずは草刈機で草を刈る。冬の間は草刈をしていないので4ヶ月ぶりに草刈機を使った。
草刈で一番やっかいなのはカヤ、藤ツル、イバラである。この畑にはカヤが沢山生えていた。
カヤは直径1センチほどの茎が固まって株になるのだが、一抱えくらいの株になると重機でないと取り除けないくらい頑丈である。住職は無謀にも耕運機で株を掘り返そうとして、はじき返され、危うく耕運機の下敷きになるところだった…
草を刈るうちに、以前使っていたビニールシートやトタン板、ネット、電気柵、古タイヤ、金属片などなどが土の中に埋もれていることが分かった。それらの上に雑草が生え、イノシシのかき回した土が載っているのでとにかく取り除くのが大変!
必死で作業していると、トンビが何度も私達の頭上を悠々と旋回していた。
私達が珍しいのか、それとも土を掘り返しているので虫でも見つけようというのか…
午前中一杯かかって畑の一角を耕して菊と水仙を植えた。
今日は檀家総代氏も夫婦揃って境内の整備に来てくれていた。
私達の知らないところでこうして黙々と働いてくれていると思うと頭が下がる思いがした。
畑の横はお寺の所有している田んぼである。2年ほど使っていないので干上がってひび割れている。
遠目には大したこと無いと思って中に入ったら…広いっ!
住職によればこの田んぼ一枚で家族1年分の米が収穫できるという。広いはずである。
檀家総代氏は草刈機でこの田んぼに生えた草を刈り取っていたので、住職と私でこの草を熊手で集めて山積みにした。広い田んぼのあちこちに幾つものカヤの山ができていく。
田んぼにできた水溜りに赤い藻のようなものが浮いていた。
檀家総代氏によれば、昨年から全国の田んぼに繁殖している外来植物だそうである。
激烈な繁殖力で水面を埋め尽くし、他の植物を窒息死させるという。
山奥の田んぼにまでそのような外来植物が繁殖しているのは驚きである。
結局、今日一日は農作業に費やした。
仕事が終わってから、せっかく花を植えてもイノシシに入られたら一巻の終わりであることに気付いた。そうならないことを祈るしかない…農作業大好きの住職は満足そうだった。
晩御飯がとても美味しかった。合掌