桜 さくら 


小さな川を挟んで境内の向かい側に公園があり、そこに植えられた桜が満開になった。
この場所は山陰のせいか、市街より開花が遅い。

舞鶴は海軍の町である。
昔、この近辺は桜の名所とされ、海軍が花見の宴を行ったそうである。
土質が合わないのか桜の数は減り、花見をするほどではなくなった。
それでも満開の桜を見ていると気持ちが湧き立つ。

桜で思い出すのは神田川の桜である。学生時代、下宿のそばに神田川が流れていた。
神田川フォークソングの名曲で知られるが桜の名所でもある。
都電の終点から少し歩くと、桜が川沿いに植えられた場所に出る。満開の時期の桜はそれは見事だった。散り際には川の水面が覆われるほどの花びらが流れた。今でも春になるとその様子を思い出す。

日本人にとって「花」とは桜を意味した。
私が好きなのは西行の歌である。

春風の 花を散らすと 見る夢は 覚めても胸の さわぐなりけり   

春の宵、夢の中で桜が風に散るのを見て、心が騒ぎ、眼がさめてもまだ、その余韻があった…花の散るのを夢に見た心のざわめきを歌に詠むような日本人が居たことは本当に素晴らしいと思う。