学校の怪談

私は東京に10年以上住んでいたが、コンビニエンスストアの店員と学校の警備員として長く働いていた。
区の教育委員会に雇われて小中学校の警備や宿直を経験したが、いろんなことを経験できた。警備員といっても危険な目に逢うことはなかったが、大きな学校に一人でいるというのは心細いことも多かった。

巡回する場合は真っ暗な教室に順番に手探りで入って明かりを付け、窓の施錠を確認していく。やはり最初はちょっと怖かった。
小学校の4階の廊下を歩くと、突き当たりの金属製のドアが必ずどーんと大ききな音で鳴る。人が移動するとで空気がドアに当たって鳴るようなのだが、真夜中だとあまり気持ちの良いものではない。

ある日の夜、校長室の前を通ると、ドアが5センチほど開いていた。
そのドアは普段必ず施錠されていたので、不審に思い中を覗いた。

部屋の隅についたてが置いてあるのだが、その下に靴のつま先らしきものが見えた…誰か人が居ると思うと、急に心臓の鼓動が早くなった。一旦、控え室にもどってどう対処するか考えた。見間違いということもあるが、やはり泥棒なら見過ごすわけにもいかない。
コンビニの店長に電話して事情を説明し、5分後に連絡が無かったら警察に通報して欲しいと頼んだ。
手近にあったストーブの火かき棒をもって、決死の覚悟で校長室に突入したら、ついたての裏には校長先生の運動靴が並べて置いてあった…

明治時代に近代的な学校制度ができた時期は埋葬が土葬から火葬に変わった頃に重なる、このため、小学校の中には不要になった古い墓地の上に建っているものがある…というまことしやかな話を聞いたことがあるが、真偽は分からない。

ある日、校舎の外を見回っていると、校舎の中から見られているような気がした。もちろん校舎には誰も残っていない時間帯である。
校舎に入ってからある教室に入ると、「ぼくの、私のお父さん」というタイトルで父親の似顔絵が一面に貼ってあった。どうもこの絵が視界に入ったらしい。

落ち着きのない、思い込みの激しい性格なのでそんな失敗をよくした。


校舎の外を巡回している時、塀の上に人影のようなものが見えた。
塀の外には街灯があるが、学校の敷地の中は明かりがないので逆光になってシルエットしか見えない。子供が塀の上に仁王立ちになって、微動だにせずにこちらをじっと見下ろしているように見える。
「危ないよ!」と言って駆け寄ろうとしたが、真夜中であることに気がついた。
シルエットをよく見ると、頭の形が変だし、どうも和服を着て、頭には髷を載せているようである…
さすがに怖かったので懐中電灯で照らすと、二宮金次郎銅像だった。塀のすぐ側に銅像が建っているので、暗がりでは塀の上に子供が立っているように錯覚したのだった

丹波の山寺で暮らしていると東京に居た頃がとても昔のように思い出されることがある。
いろんなことを経験できて今があると思うと有難いが、いい加減で大雑把な性格はあまり変わっていない気がする。