風の立つ日

 毎年、サツマイモを植えるが、今日の午後はイノシシ除けの柵作り。
 トタン板を手製の竹の杭で止めて、畑の周囲を囲っていく。

 畑は境内のかなり奥なので人の気配が無い。
 手を止めると周囲の山から吹き降ろしてくる風を感じる。

 時々、風の中に人の声のようなものが混じるから不思議である。
 錯覚なのか、それとも風向きで遠くの人の声が運ばれてくるのか…

 作業を終えて、庫裏に入ると蚊取り線香の匂いがした。
 いよいよ蚊取り線香を焚く季節になったかと思うと、夏がすぐそこまで来ているのを感じた。
 蚊はそれほどでもないが、作業をしていると「ブト」と呼んでいる小さな、黒い虫が顔の周りに一杯あつまってくるのである。これからの作業に蚊取線香は欠かせない。

 台所でお茶を飲んでいると、風が樹の梢を通る音が聞こえる。
 風が強く吹くと、枯れた葉が一斉に落ちて、風の中を飛んでいく。

 この時期、葉の茂った梢を風が通ると様々な音がする。
「ざわざわ」「しゃーしゃー」「ごーごー」「ばらばら」…
 妻は、初めてキッチンで「しゅーしゅー」という風の音を聴いて、ヤカンのお湯が沸騰したのかと思ったそうである…
 私も夜などに時々、風の音を雨の音に聞き違えることがある。風の音といっても千差万別である。

 「五風十雨」という言葉がある。
 5日に一度風が吹き、10日に一度雨が降るように、天気が順調で、農作のために都合がよいことだという。念のため辞書で調べたら、もうひとつの意味として「世の中が安泰であること」と書かれてあった。
 なかなか味わいのある言葉である。