作詞 弘法大師


 暫く前に文化庁によって「日本の歌100選」が選ばれた。
 私がここに是非、加えて欲しかった歌がある。「いろは歌」という歌曲である。
 「いろはにほへと」で始まる「いろは歌」に曲がつけられ、真言宗のお坊さんの間では広く歌われている。

 私はあるお葬式で初めてこの歌を聴いたのだが、深い余情に溢れた素晴らしい歌だと思った。
 単なる歌謡として鑑賞するというより、お葬式などの場で聴くと、その深い意味こそわからねど、胸に迫ってくるものがある。旋律もシンプルだが、とても心に響くものがある。

 いろは47文字を全て使用し、極めて深い宗教的な哲理を表現している点で「いろは歌」というのは完成度の高い文学作品である。 大学で講義を受けた比較文学の大家も絶賛しておられた。

 「いろは歌」が弘法大師の作であるという説は残念ながら、学問的にはほぼ否定されているそうである。それでも真言宗の僧侶としてはやはり「いろは歌」は弘法大師の御作りになられたものと思いたい。

 正式には「宗歌 いろは歌」と表記されるようだが、さすがに「作詞 弘法大師」という表記はかなりインパクトが強い。

 私は御詠歌などの宗教音楽を正式に習ったことはないが、そうした教授を受けた人が、葬儀などの場で歌われる「いろは歌」には本当にしみじみとした感動がある。

 色は匂へど 散りぬるを
 我が世誰ぞ 常ならむ
 有為の奥山 今日越えて
 浅き夢見じ 酔ひもせず