「蟹工船」ブームって…

    谺(こだま)して 山ほととぎす ほしいまま   杉田久女


 「テッペンカケタカ、テッペンカケタカ…」
 そんな鳥の声が朝からずっと木霊(こだま)して聞こえる。どんな鳥かとおもったらホトトギスの声だと分かった。ホトトギスに限らず、早朝から夕方遅くまで鳥の囀(さえず)りが絶えない。
 朝起きて、少しばかり座禅を組むのが最近の習慣だが、鳥の声が心地良いのでつい耳を傾けそうになる。特にホトトギスの声は高くてよく響くので、寝起きのぼんやりした脳髄に突き刺さるようである。久女の句が実感される。

 最近の面白い現象は小林多喜二の「蟹工船」が異例の売れ行きだというニュースである。
 ある座談会で格差社会の現状と労働者が資本家に搾取される「蟹工船」の内容が酷似していると触れられたことがきっかけで売れはじめたそうだが、どうも原作に忠実に漫画化されたことも売れ行き好調の大きな原因らしい。
 最近は書店のPOP一枚がきっかけで何万部も本が売れたりすることがある。「蟹工船」のブームというのも消費がなかり流動的になっていることの現われかもしれない。

 私が昔からずっと気になっていたのは、文学思潮としてのプロレタリア文学は影を潜めたのに、政治思想としての社会主義共産主義はなぜ未だに支持を得られているかということである。もちろん細々とだが…プロレタリア文学が復活するとも思えないが、やはり一時的な現象なのだろう。ちなみに私がプロレタリア文学の中で傑作と思うのは葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」※である。掌編ながら素晴らしい輝きがある。
 産経新聞の金曜版には「さらば革命的世代」と題する連載記事が書かれていて、先日は元赤軍派議長として武装闘争路線を指揮した「日本のレーニン」こと塩見孝也氏のインタビューが載っていた。(2008年7月4日)この連載はかっての左翼運動を総括する上でいろいろ興味深い事実にスポットを当てていて、なかなか面白いのでお勧めである。最近の塩見氏はシルバー人材センターから市営駐車場に派遣されて働いていて、これまで正規の仕事に就いたことがなかったのが「ようやく労働の意義を実感」されているとか。MIXYに熱中していてハンドルネームは「預言者」だそうである(笑)よほどカリスマ性のある人物なのかミク友が600人もいるそうである。今度覗いてみたい。オルグされたりして…


 京都新聞は典型的な左翼系地方紙だが、やっぱりというべきか「蟹工船」ブームを喜々として報道していた。京都新聞の社説である「凡語」でも早速取り上げられていたが、その内容は少々お粗末だった。昔の「蟹工船」のテキストには沢山の伏字があって、それは国家権力の為せる仕業である。げに恐ろしき国家権力…みたいなことが書いてあったが、ソ連東ドイツ北朝鮮など社会主義共産主義を標榜して生まれた国家の権力がどれほど恐ろしく、言論の自由の無いものであったのかを考えれば、あまりにも見当はずれというほか無い。

 小林多喜二特高警察によって惨殺されたが、当の左翼運動の内部でもどれほど多くの人命が失われたか考えてみるべきだろう。極めて凄惨な、拷問、殺人、破壊活動が行われ続けたことを忘れてはならない。

 安田講堂に学生が籠城して、機動隊との衝突で樺山美智子さんという女性が圧死したことが未だに取り上げられたりするが、運動内部で実際は多くの死者を出しながら、一人の圧死者をまるで聖人のごとく祭り上げるのはあまりに違和感がある。当時から可哀想な学生VS機動隊という構図で報道されることが多かったが、学生が勝手に建造物を占拠したり、立て籠もったりすること自体が明らかな犯罪行為である。

 私の通っていた大学も学生運動の一大拠点で、時々「全ての学部生は直ちに集合してください!」みたいな呼びかけが行われたが誰も集まらなかった…その代わり、どうみても学生に見えないプロ活動家風の人物がどこからか集まってたむろしていた。
 大学構内にもこうした活動家が教室を占拠している場所がいくつもあり、或る年のゴールデンウィーク明けに学校に行ったら、占拠していたフロアから荷物が撤去されて売店になっていた(笑)もちろん活動家と大学でいろいろ悶着があったが、私達は愉しく見物を決め込んでいた。
 秋の大学祭になると、この活動家達が高額なパンフレットを販売して、これを購入しないと大学の生徒であっても構内に入れないのである。学生の総数だけでも4万人くらいだったから,一般の入場者を含めるとその総収益たるや膨大な金額になったはずである。どう考えてもサクシュである。それらも結局は活動資金として流用されたかと思うと少々腹立たしい…
 サクシュするのは資本家だけではない、左翼活動家だってサクシュするのである。

そういえば旧ソ連アネクドート(小噺)にこんなのがあった。

 復活したマルクス赤の広場に立ち、ソ連の現状を見てこういった
「万国の労働者よ、ごめん!」



 ※葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」については下記サイトの全文が掲載されている

  http://www.aozora.gr.jp/cards/000031/files/228_21664.html

【追記】
皆様のご支援によりなんとかこのブログも継続できております。
いつの間にかページビューも7万台後半。有難いことです。感謝申し上げます。
明日は7月7日ですが、もしかしたら77777というキリ番が出たら…と密かに楽しみにしております。