ノウゼンカズラの誘惑


 この時期の花で目立つのがノウゼンカズラである。
 原産は中国の花らしいが熱帯の花を思わせる際立った色をしている。境内にも一本あって次々と開花している。
 この花が咲き始めるといよいよ夏の本格的な到来を実感する。
 境内にある百日紅やブッドレアも開花を始めた。

 この時期は山へヒバ取りに行く。
 柴燈護摩といって屋外に炉を組んで所願成就を行う行事を行うのだが、炉の周りをヒバ(ヒノキの葉)で覆うので、ヒノキの若木チェンソーで切り倒してヒバを取るのである。

 軽トラックにチェンソーを積んで出かけた住職がいつまで経っても帰ってこない…
 心配になって見に行くと、ヒノキとは全然違う木を懸命に切り倒している。いよいよ、頭がおかしくなったか…と心配して見ていると、腕ほどの太さの雑木を切り倒して、枝を払い、2メートルほどの棒を作っていた。

 聞いてみると倒したヒノキが別の木に引っかかったのだという。
 見ると10メートル近いヒノキを根元から切り倒したのはいいのだが、先端が別の木に引っかかっている。
 試しに気合を入れて動かそうとするがびくともしない。腰がめりっと音を立てた気がしたので慌ててやめた。
 住職いわく速成の棒をテコのように使って倒れた木を動かすのだという。
 試しに倒木の下に棒を差し込んで持ち上げると僅かずつ倒木が動き始め、やがて引っ掛かかっていた部分が外れて、下に倒れてきた。
 住職なかなか老獪である…
 二人がかりで倒木の枝を払ってヒバを集め、幹も2メートルづつに切断。幹は薪か杭になるのだろう。
 今日も30度を越える暑さで、二人とも汗だくになった。

 この時期に車で走っていると道端で咲くノウゼンカズラをよく見かける。
 これからかなりの期間咲き続けて眼を愉しませてくれる。

 ただしひとつだけ困ったことがある。
 この花の色がマスクメロンの果肉そっくりなので、夏の暑い時期にこの花を見るたびに冷たいメロンにかぶりつきたくなるのである。