ネットに生まれる神々

 
 高校生の頃、ロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」(早川文庫)を読んだ。
 内容は…だったがとにかく表紙のイラストが超格好良かったのだけは今でも覚えている。

ガンダム」の作品世界で重要な役割を果たすモビルスーツはこの「宇宙の戦士」の影響を受けているそうである。
「スーツ」というくらいだから、本来は強化服のようなもので精々2メートルくらいの大きさのものが本来の設定だったそうである。
ジェームズ・キャメロン監督の「エイリアン2」でシガニー・ウィーバーがエイリアンと戦う時に使ったのも人間を一回り大きくしたような機械だった。)
 ところが「機動戦士ガンダム」のスポンサーだったおもちゃ会社の意向で、より巨大化した大きさのモビルスーツに設定が変更されたそうである。さもありなんという話ではあるが…

 人間がこういった機械を装着するとあたかも自分自身の能力が一気に拡大したような錯覚を受けるのかもしれない。
 車に乗ると、途端に人が変わったように乱暴な運転をする人がいる。車という乗り物が、その人の持っている何かを引き出しているのだろう。

 モビルスーツの搭乗者にはどのような心身の変化が訪れるのか興味深い。
 モビルスーツの搭乗者はある種の破壊的な衝動に駆られることが様々な作品で描かれている。(もっとも私の場合、そんな機械を装着してしまって背中や頬っぺたが痒くなったら発狂してしまうのではないかなどと余計な心配をしてしまう)



 フレドリック・ブラウンというオールドファンには懐かしいSF作家がいる。

 ブラウンのショートショートに「回答」(原題“Answer”創元推理文庫「天使と宇宙船」所収)という作品がある。
 或る時、人類は全宇宙に存在する、960億個のコンピューターを超回線で接続することを試みる。(←これはインターネットの出現を予測したものだとも言えるだろう)
 最後の一台を接続し終え、最初に発せられた質問は


 「神は存在しますか?」


だった、それに対する、コンピューターの回答は


 「イエス、今こそ神は存在します」

 
 なかなかひねりの効いたオチである…

 今日、インターネットを介して無数のコンピューターが接続され、ネットという仮想的空間が生じている。実態が在るような無いような不思議な世界である。

 インターネットは冷戦期に核などの攻撃によって中枢が破壊されると機能しなくなる従来のシステムに変わるものとして構想されたものである。
 従ってインターネットの世界というのは特権的な中心が無いというのがひとつの特徴だろう。
 逆にいうと無数の人々が自分の発信する情報を閲覧し、返信し、或いは自分について語るといったリアクトが増えると、あたかも自分がネットという世界のひとつの中心であるかのような錯覚を生むのかもしれない。
 ネット世界の神は一神教的な神ではなく多神の世界である。


 こうしたインターネットの普及という情報環境が明らかに多くの犯罪を誘発し始めている。
 自分が神になりたい、自分が世界の中心に立ちたいという欲望を人々は抱き始めている。
 この欲望をいかにコントロールし、健全な方向に導くかというのが今後の大きな課題になるだろう。