久々に全粒粉のチャパティ

  【お坊様のレストラン】

 朝起きると、スズメバチの刺された右手がむず痒い。
 手の甲に浮き出ている血管が見えなくなるほど、手の甲全体がふっくらと腫れている。
 赤ちゃんの手みたいというべきか、板垣恵介先生の「バキ」シリーズに出てくる柳龍光の毒手拳の手みたいというべきか。
 刺された額は殆んど痕跡もなく、蚊に刺されたほどの痒みがあるだけ。頭の血の巡りが悪いのか…

 午前の作業に行こうとすると住職が「昨日は雨が降ったから草が刈りやすい」と言う。昨日の続きをやらせたいらしい(笑)作業小屋で作業服を着ようとすると、既に草刈機がこれ見よがしに置いてある。
 仕方なく昨日の場所を刈りはじめたが、なんか嫌な感じがしてやる気がしない。おまけに草刈機の刃を止めるボルトが突然はずれそうになった。益々やる気が無くなったので、家の向かい側の藪で草刈を始めた。

 昼前になったので庫裏に戻ってみると私の刈りかけた山の斜面に作業着姿の住職が立っていた。手にはキンチョールのスプレーを持っている。
 「スズメバチの巣を見つけた」と得意げである。よく見ると山の斜面にサッカーボールくらいの巣がある。昨日私が草刈をしていたすぐ足元である。住職もスズメバチがこんな山の斜面に巣を作るのは初めて見たとのこと。
 住職はキンチョールをもってスズメバチの巣に突撃するとスプレーを掛け始めた。
 もしあのまま斜面の草刈をしていたらまた刺されていただろう。自分のシックスセンスを信じて正解だった。


 私はかなりパンが好きである。

 クロワッサン、フランスパン、食パン、各種の甘いパン…いろんなパンがあってそれぞれに美味しいが、雑穀や全粒粉を使った食事パンには特に魅力を感じる。問題はそうしたパンがなかなか手に入らないことだ。食事を組み立てる基本的な柱として精製度の低い穀物をどのように取り入れるかは大切なことだと思っている。


 池袋に近い安い下宿で浪々の暮らしをしていた頃は、よく池袋西部の地下街にあった神田精養軒にパンを買いに行った。午後2時頃行くと下落合の工場から焼きたてのパンが送られてくる。確かライ麦を5割くらい入れた食事パンが200円ほどだったと思う。まだ表面がカリッと固く、袋の内側に蒸気が付くくらい暖かかった。とても美味しかったのを覚えている。

 スーパーなどで市販している「全粒粉のパン」は、食材のところに黒糖や三温糖と記載してあるものが殆どで、これは生地を黒っぽく見せかけるためではないかと疑っている。実際のところ全粒粉が果たしてどれくらい使われているか信用できない。

 昨日、丸元淑生氏の「丸元淑生のクックブック」(文春文庫)をパラ読みしていたら、全粒粉のチャパティの作り方が載っていた。
最近、随分作っていないのを思い出したので夕食の時に作ってみた。粉3に対して水1の割合で混ぜ、水、塩、オリーブオイル少々を加え、濡れふきんかラップを被せて1時間以上置く。あとはステンレス多層構造鍋で蓋をして焼くだけである。

 全粒粉カップ1に水3分の1カップ(もちろん目分量である)で混ぜるともっちりとした生地ができる。生地は弾力があって手でこねていると気持ちが良い。
 できるだけ薄く延ばしたくて麺棒で伸ばそうとしたら思い切り麺棒にくっついた…ここらへんは研究の余地有りである。形にこだわらなければ手で耳たぶくらいの薄さに伸ばすだけでも十分であった。

 良く熱したステンレス多層構造鍋に油を引かずに焼く。
 この分量で掌大のものが3枚くらい焼けた。一回の食事としては十分だろう。

 これはステンレス多層構造の鍋を使った焼き方なので他の調理器具ではどうなるかは不明。
 テフロンのフライパンなど良いかもしれない。

 調味料は塩しか使っていないが噛み締めると何ともいえない深い味がある。(←ここらへんは丸元叔生調)
 市販のパンは100種類以上の添加物を使っていると聞いたことがある。添加物といっても無害なものも多いのだろうが、添加物を含まない全粒粉100%のパンが簡単にできることは覚えておいていいと思う。

 ちょうどスーパーで買った「全粒粉入りのパン」があったので食べ比べてみたが、全然
味が違う。全粒粉のチャパティと比べると市販のパンは抜け殻のような味である。

 「グルメ」という言葉も半ば死語に近いがテレビでも雑誌でも相変わらず美食が大きく取り上げられている。だが精製しない穀物の深い味はそれらに引けを取らない美味であると私は思っている。