寝る前には「遠野物語」

兼務している山寺には沢山の萩が植えられている。

白萩が殆んどだが、紅色も僅かにある。
花を付けた萩の細い茎が風に揺れているのは見ていて愉しいものである。

 先日、旧知の撮影家の方がこの山寺の風景を撮影された。その映像をNHKに投稿されたところ採用され、本日放送されると連絡があった。見たいのはやまやまだが、ウチにはテレビが無いので諦めざるを得ない。
撮影された直後に、撮ったばかりの映像を見せていただいたが、実物よりずっと綺麗に見えた。映像の不思議のようなものを感じる。

 最近は枕元に何冊かの本を置いて、寝る前に数ページずつ読むのが常である。
 小学生の頃も寝る前に本を読む習慣があったので、昔に戻った気分である。
 あまり現実的な内容のものは気持ちが昂ぶるので避けることにしている。
 (ちなみにパソコンでメールチェックするとエスプレッソコーヒーを2杯のんだくらいの覚醒作用があるそうである。だから寝る直前はパソコンを使わないほうが賢明だろう。)

 眠る前に一番、良いのは瞑想や座禅をすることだろう。
 体調によって感触が違うが、どうかすると脳に注射器で睡眠薬を注射されたような強烈な眠気に襲われることがある。そのまま眠ることができた時はとても深く熟睡できる。もっとも睡眠薬代わりに座禅していると言うと禅宗のお坊さんに怒られそうだが…

 最近、枕元に置いているのは次の3冊。

 中村元 訳「ブッダのことば」(岩波文庫
 水野純「一冊で頭がよくなるインド式かんたん計算法」(三笠書房 知的生き方文庫)
 柳田国男遠野物語」(角川文庫)

 お気に入りは「遠野物語」である。
 「遠野物語」は一見、極めて特異だが、かってはこのような世界が日本中に広がっていたのだと思うと引き込まれずにはいられない。300余りの断片的な聞き書きが拾遺されている。

 その内容は私達が民話や昔話と思っているものの原型のようなものだろう。
怪異なことが本人の直話や身近な伝聞として淡々と語られることに何ともいえない味わいがある。

 江戸幕末の遺風の残る話から、怪異な体験、物の怪、異人、狼、狐狸妖怪、霊験譚、などが延々と続く。殆んど全ては遠野の山郷の暮らしを背景に語られるが、見知らぬ遠野の世界が眼に浮かぶように感じるときがある。

 寝床に入って眼を閉じ、風の音や虫の声を聞くとき、ふと遠い昔の山里に想像を馳せることがある。