静かな秋

 


 今日は兼務している山寺で留守番の日である。お参りの人もなく境内は静かだった。

 本堂の前にある寺務所の窓から周りの景色を見ると、日差しが何ともいえず柔らかい。
 私のなかではこの日差しの感覚が秋なのである。

 なんとなく嬉しくなって木立の中に行くと木漏れ日が苔の上に差していた。
 太陽の位置が変わるにつれて、境内のいろんなものに日差しが当たったり、影が差したりする。

 お堂の白い漆喰の壁に映る光も、庭石に当たる日の光も、みんな柔らかく、透明感がある。
 形でいえば綺麗な円相を描いているようである。

 なぜか八木重吉の詩を思い出した。
 10代の頃に初めて八木重吉の詩を読んで以来、時々、この詩人の作品を読みたくなることがある。

 八木重吉の詩にはリズムや音韻は感じないが、今風のメッセージの塊のような詩では決してない。
 ひたすら透明で、柔らかい心を感じられる。
 全体に少し寂しい感じがするのも秋に読むにはぴったりである。

        素朴な琴     八木重吉

    この明るさのなかへ
    ひとつの素朴な琴をおけば
    秋の美しさに耐えかねて
    琴はしずかに鳴りいだすだろう