母親の夢

 

 7年くらい前、まだひとり暮らしをしていた頃の話である。
 かなり深く気持ちが落ち込んだことがあった。

 2年ほど時間を費やした計画が全く無駄になるということがあったのである。
 無力感と虚脱感で気持ちが一杯になり、毎日が憂鬱だった。
 周囲にそれと分かるほど顔色が悪くなり、歩いていても地面をしっかり踏みしめられないようなふわふわした感覚になった。

 そんなことがどれくらい続いたろうか。
 ある夜、こんな夢を見た。

 
 私は牢屋の中にいた。

 床は柔らかい泥のようなものでできていて足首まで沈んでしまうほどだった。
 私は牢屋の中で四つんばいになって両手、両足を、柔らかい泥の床に中に沈みこませていた。
 そこへ和服を着た母親が入って来た。
 母がその檻の中から出ようとした、牢屋から出ようとするうちに着物は泥で汚れていった。そして気がつくと母も私の隣で四つんばいになって同じ牢屋に閉じ込められていた。

 
 そんな夢だった。
 そして、その夢を見て以来、少しづつ気持ちが上向きになり、もとの精神状態に戻ることができた。

 気持ちの落ち込みが頂点になったところで、なぜか母親の夢を見て、気持ちを取り戻せたというのは興味深い。
 母親は私を牢獄から救ってくれたのではなく、同じ境遇に自分を置いてくれたということが私の心を回復させてくれたように思う。

 今は実家の山寺で母親と暮らしているが、よくつまらないことで喧嘩をする(笑)

 でもそんな母親が私の心の深いところで支えてくれているというのはやはり不思議なことであり感謝に値することだと思う。

 今でも時々、この夢のことを思い出す。