万願寺とうがらし

車で田舎道を走っていると枝も折れそうなほど沢山実の付いた柿の木を見かける。今年は柿が豊作のようである。
例年よりやや多いと感じるのが黄色い花をつけるセイタカアワダチソウである。
薄(ススキ)に混じって風に揺れている姿はなかなか風情がある。

檀家さんのSさんのところへお寺からの案内を届けに言ったら、家の前の畑からSさんのおばあさんがひょっこり姿を現した。背丈の高い花木の間から小柄なお年よりが出てきたのでなんだか昔話のよう。

この方は住職と同年代だが、いつもお元気である。
つばの広い作業用の帽子に手袋、長靴と完全装備で仕事に精をだしていた様子。
昔はこうした仕事着がとても野暮ったく、田舎くさく思えたが、今はとても素敵に感じる。
化粧気のない顔は皺が多いが、笑顔がとても明るくて素敵である。

案内の入った封筒を渡すと、「胡瓜を持っていんで(持って帰って)」と季節外れの珍しい胡瓜を貰う。次に畑になっている万願寺とうがらしを見て、「ちょとぼりますで(採ります)」と剪定ばさみで手際よく採集が始まり、あっという間に袋が一杯に。お礼を言って帰ろうとすると「さつまいもは食べてですか?(食べますか?)」と軒下に広げてあったさつまいもを別の袋に入れて下さる。もう一度お礼を言って帰ろうとすると、「大根はどうです?」といわれたので「じゃあ一本だけ」と素直に返事して、結局、立派な大根を2本頂いた。
最後に車を出すとき窓を開けて挨拶すると「ゴーヤーはどうですか?」と言われたがさすがにこれは辞退して車を出した。

万願寺とうがらしは私の好物である。
ちなみに京野菜の認定第一号がこの万願寺とうがらしである。これはご存知ない方が多いだろう。
西舞鶴真言宗御室派のお寺で満願寺というお寺があり、その近辺が発祥の地であるらしい。

この万願寺とうがらしは当地の特産品で、小ぶりのものを天ぷらにすると格別に美味しい。
東京に居たころ、居酒屋のメニューに万願寺の天ぷらを見つけて、懐かしくなって注文したらたった一個だけ半紙に載って出てきた。値段は確か300円だった。随分高く感じた…

この時期、あちこちの檀家さんからこの万願寺とうがらしを頂くが、和洋中どんな料理にでも合うので重宝する。少しでも霜に当たったりすると、表面に少しばかり黒いシミができてそれだけで商品価値が無くなるそうである。味は変わらないのにもったいない話である。