1000の名句

明日で10月も終わりである。

いよいよ山寺の忙しい時期が近づいてきた。
本日は妹夫婦が手伝いに来てくれたので、おぜんざいを食べて頂くためのテントを張り、その後、本堂に五色の垂れ幕を張った。

今日は静岡から初老のご夫婦が拝観に来て下さった。
私は本堂に居たので妻が仏像を納めてある宝物殿を案内したのだが、後で「すごく感じの良い方だった」と嬉しそうに言うので、山門を出られる前に私も少しお話させて頂いた。

拝観の方を案内させて頂いた時に何かしら心に感じるものがある。
その人それぞれの感じ方や生き方が僅かな応接の間に伝わってくる。仏教や仏像に関する造詣の深い方も尊敬に値するが、知識というよりはその方の生き方に仏教的なものが反映しているような方というのはとても惹かれるし、私達もお手本としないといけないと思うことがある。今日、拝観に来られた方は穏やかで、温かな人柄に正にそのような感じを受けた。有難いことである。

午後からは地元の白楽小学校の生徒が地域の歴史を調べるために拝観に来られたの宝物殿でお寺の説明をした。この仕事に就く前に小学校の警備員をやっていて随分、大勢の子供達と接した記憶があるので少し懐かしく感じた。

夕方、勝手口から庫裏に入ると小豆を煮る甘い香りがした。
母がおぜんざいの準備に小豆を茹でこぼしていた。この香りは私にとって11月の香りである。

今日は久しぶりに妻と外食して、帰りに寄った大型書店で素敵な本を見つけた。

「名俳句  1000」佐川和夫 編 (彩図社)555円

本書は近現代の著名な俳句1000句を集めたアンソロジーである。1000の名句が作者と季題に分けて編集されているのである。
編者の解説は一切無いが、どちらかといえば意味のすっきりと分かる平明な句が多い。


青空に指で字をかく秋の暮  小林一茶
虫の中に寝てしまいたる小村かな 青木月斗
身にしみて人には告げぬ恩一つ  富安風生
生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉  夏目漱石


俳句は言葉を徹底して吟味して生まれるが、たった十七文字の中に自然や人事の無限の広がりを掬いとることが出来る不思議な芸術である。
秋の夜半、寝る前にパラ読みするにはぴったりである。

今日も山寺の一日が過ぎた。
何も特別なものはないと思う一日の中に多分、沢山の幸せが埋もれているのだろう。