法話で失敗した話

 

本日もうららかな秋日和
予報ではいよいよ今晩から4日続けて傘マークが…

本日は今月で最高の人出である。
家族もお手伝いに来て下さった方も皆ぐったりである。
それでも紅葉はまずまずで、夕方からはライトアップも行われ、大勢の方に喜んで頂けたのは嬉しい限りである。


11月には観光バスで団体が大勢来られるが、一般の紅葉見物とは別に、<花の寺巡り>というツアーがある。
これは紅葉見物に加えて住職が簡単な法話をすることになっている。
私は子供の頃から人前で話したりすることが大の苦手だったので、お坊さんになった頃は自分が人前で偉そうに?話をするなどというのが考えられなかった。

山寺に帰って来て最初に11月を向かえた頃、一般の紅葉見物の団体は私が簡単に境内を案内し、法話の必要な<花の寺巡り>の団体は住職が境内を引率して法話するという分担になった。

ところがある時、何をどう間違えたのか住職が法話するはずの団体を私が案内してしまい、法話をせずに返してしまった。すると…添乗員さんが猛烈な勢いで怒鳴り込んできた。まだ若い女性だったが受付の担当者も、(結構気の強いしっかり者の)妹もお手上げ状態になり、最後に私が「どうしたら納得して頂けます?」と聞いたら、旅行会社に謝罪すること、それから駐車場に止まっている団体のバスまで来てツアーの参加者の前で謝罪して尚且つバスの中できちんとお寺の説明をして欲しいとのこと。さすがにあんまりだと思ったが仕方がないので駐車場に止まっているバスに乗り込んだ。

 <花の寺めぐり>のお客さんというのは大半が京阪神の女性である。バスに乗ってマイクを渡され、バスの中を見渡すと、気の強そうなおば様の顔が一杯並んでいた。これはきっとがんがん怒鳴られたりするんだろうなと思いながら、一生懸命に謝罪し、何度も頭を下げた。暫くしてふとバスの空気が変わっていることに気がついた。お客さんの殆んどが優しそうな顔で笑っていた。私が最後に挨拶してバスを降りようとすると拍手までして送ってくれた。すごく嬉しかったのを覚えている。

その時、もうひとつ困ったことが判明した。同じ添乗員さんが来週、別の<花の寺めぐり>の団体を連れてお寺に来る予定であり、しかも折り悪くその日は住職が不在なのである(笑)

いよいよ覚悟を決めて自分が苦手な法話するしかないことになった。
その日から、法話の練習をし、一週間後は何とか法話らしいものができるようになった。不慣れなのでたいした話はできなかったが問題の添乗員さんも何も言わず帰ってくれた。

それ以来、私も住職と同じように法話するようになった。
今から考えれば添乗員さんのいいなりに謝る必要もなかったかなと思うが(笑)、痛い目に遭うことで、自分もひとつ壁を乗り越えられた気もする。その時の失敗がなければ、今も法話は住職に任せて自分は人前で話すのは苦手なままで過ごしていたかもしれない。
 自分の不幸に感謝するなどということはまだまだ出来ないが、あの添乗員さんは自分に必要なことを教えてくれたのかもしれないと思うことがある。

あの時の添乗員さんの顔は今でも忘れないが、その時以後、一度もこのお寺には来られていない。