波津彬子「雨柳堂夢咄」

 昨日は今市子さんのことを書いたがこの方の「百鬼夜行抄」を読んだとき、波津彬子氏の「雨柳堂夢咄」(うりゅうどうゆめばなし)を思い出した。

 「雨柳堂」は一時期ハマった漫画である。

 「雨柳堂」の主人公は骨董店である雨柳堂で働く蓮の物語である。
 蓮は骨董に込められた<思い>や<念>、あるいは骨董にまつわる<精>の存在を感受する能力がある。

 この作品ではしばしば動物の存在が大きな役割を果たすが、この作品では人間も骨董も動物もこの世ならぬものなどなども自由に交流しているように感じられる。その交流はとても繊細で穏やかである。
 ハリウッド映画に溢れているような攻撃、征服、勝利…といった荒々しさが無い世界である。

 対立があってもそれがいつか穏やかさや、叙情に溶かされていくような感覚がある。

 日本の漫画やアニメに共通する大きな2つのテーマとして<緻密さ、繊細さの感覚を求めること>と<共生や調和を志向すること>があげられるのではないかと思う。

 「雨柳堂」はまさにその王道を行く作品であり、しかもそこに日本の伝統的な美意識が端然とちりばめられている気がする。

 波津氏は泉鏡花の作品を漫画化されている。
 波津氏の描く登場人物は皆涼しい眼をしているが、この眼もとは私には鏡花の作品にぴったりはまる感覚がある。波津氏の美意識の中には鏡花と通じるものがあるような気がしてならない。

 中古書店今市子さんの漫画を買った時、店内にとても感じのいい曲が流れていた。
 思わず店員さんに曲名を尋ねたらmelody.の「遥花〜はるか〜(Haruka)」※という曲だと教えてくれた。店員さんによればテレビドラマの主題歌だったそうである。どんなドラマなのか分からないが、なんとなく今市子さんや波津彬子さんの作品に似合う曲のように思えて愉しかった。

      ※ http://jp.youtube.com/watch?v=UVrSc1ATqzg