スダッタの金貨
昨晩、兼務している山寺に住む妹から電話があった。
境内に仕掛けてあった檻にイノシシが捕まったという。
現在は狩猟期間なので免許を持った人達は自由に山野に檻を設置している。
境内にある檻もどこかの猟師さんの仕掛けたものである。
イノシシがどんな様子かデジカメで写真を撮ってきてほしいと頼んだが、断られた。
イノシシが檻の中で大暴れして片足が千切れそうになっていて怖いとのこと。
罠に脚を取られたイノシシが自分の脚を噛み切って逃げたと聞いたことがある。
野性の生き物はなんとも凄まじい。そしてやっぱり可哀想である。
2年前も山寺のすぐそばでイノシシの親子が檻に捕まった。
見に行くと親イノシシは檻の中で倒れて動かなかった。何日も檻の中を突進して、檻に体当たりを続け、遂に力尽きて倒れたのだという。
そして私の前に見ている眼の前で二匹のウリ坊が懸命に体当たりをしていた。
親が倒れたら今度は子供達が必死で檻に体当たりをはじめたという。まるで子鹿のようにしなやかに跳ねて檻に体当たりしていたウリ坊の姿が忘れられない。
午前中は雨が降ったが、午後からは陽が差し始めた。
地面にはもみじの葉が沢山落ちている。落ち葉は人に踏まれるうちに土に還るが、もみじの色と形を保っている間は綺麗である。
雨に打たれた落ち葉は地面にぴったりと貼りついている。黄色い葉が地面に敷かれると風景が明るく変わるほどである。
とりわけ陽が当たると、見違えるように燦爛とする。
陽の射すと一瞬に地面の様子が変わるので面白い。
本堂に至る細い土道路があり、そばにあるもみじから黄葉した葉が落ちている。
雨上がりに陽が射すと、樹上の黄葉も路に落ちた黄葉も一斉に輝き始める。
お釈迦さまが説法をされた祇園精舎はスダッタ(須達多)という有徳の富豪がお釈迦様に提供したものである。
その土地はもともとジェータ太子という王族の土地であった。ジェータ太子が戯れにこの土地に金貨を敷き詰めたら譲ると言ったところ、スダッタは迷わず自分の財産をその土地に敷き詰めはじめた。驚いた太子は折れてこの土地を譲ったという。
地表で輝くもみじはスダッタの金貨のように見えた。
今日は妻が法事で実家に帰省し、住職も午後からお葬式へ。
というわけで人手が無くてとても忙しい一日だった。母親はお昼ご飯を食べる暇がなかったとこぼしていた。
当山のもみじまつりも残り僅かである。