御室桜の謎

 来客を見送って玄関に出ると、山門や庫裏、境内の木立から溶けた雪が光の粒になってほとりほとりと落ちていた。私の好きな光景である。これから何回か雪は降りそうだが、大雪になることもなさそうである。



 一昨日はお風呂の薪の火が消えて大層寒いお風呂だったので、昨日は入念に薪をくべてからお風呂へ。いつも最後にお風呂に入るのでぬるめのお風呂が多いが、薪でしっかり焚いたお風呂は身体の芯からぽかぽかして、まことに気持ちが良かった。布団に入ってから20秒で寝息が聞こえたとは妻の証言である。

 ところが眠りについて2時間もしないうちに鹿が境内にやってきて、飼い犬達が爆音で吠え始めて目が覚めてしまった。せっかくの心地よい眠りが破られて腹立たしいやら悔しいやら…

 本山に居た頃、冬はとにかく寒くて、暖かいと実感できるのは風呂の中だけだった。お風呂場から出るのに勇気がいったことを思い出す。家庭用より一回り大きいステンレスの浴槽があるだけのお風呂だったが、同門の仲間とその浴槽につかりながら身体暖かいということがこんなにも有難いことのなのかと何度も思った。


 本日の京都新聞には仁和寺の御室桜の記事が載っていた。

 仁和寺の桜は御室桜とも呼ばれる。
 京都の桜の中では開花時期が最も遅い。背丈が低いことでも有名である。

 仁和寺には樹高が3メートルに満たない桜が境内に130本余りある。

 長年、なぜ御室桜の背が低いか不明だったが、ボーリング調査の結果、粘土層の地層の上に水はけの良い土が50センチの深さで載っており、桜はその土の中で根を張るが、粘土質の中までは根を張れないために樹高が低いことが判明した。水はけの良い土は別の場所から持ち込まれた可能性もあり、御室桜は大きな盆栽のように育っているそうである。

 仁和寺は私が修行僧として1年余り過ごした本山である。修行僧の宿舎からお勤めをするお堂まで歩く間に丈の低い桜が咲き誇っていた光景を時々思い出す。


 花が散ると、綺麗なさくらんぼが沢山実る。あまりに美味しそうなので同期の一人がこっそり食べたが、不味くてとても食べられたものではなかったとのこと。そんなことも懐かしい想い出である。

 

         さまざまのこと思い出す桜かな  松尾芭蕉
         茎右往左往菓子器のさくらんぼ  高浜虚子