漁村での年中行事

 本日は兼務しているお寺の年中行事である。

 峠をひとつ越えた漁村に行き、そこにある禅宗のお寺で祈祷したあと、祈祷したお経の本を持って、村の子供が家々を一軒づつ回るという珍しい行事である。

 子供達は裃(かみしも)を付け、「お経さんが入ります」と呼ばわって家に入る。なかなか古式豊かな行事である。

 真言宗の坊さんが禅寺で祈祷するというのも珍しい。

 祈祷でお借りする禅宗のお寺ももともとは真言系だったらしい。ということはこの行事の始まりはこのお寺が禅宗に改宗する前からである可能性が高い。恐らく何百年と続いている行事なのだろう。

 昨今は子供の数が減り、お経を持って回る男の子が居なくなったので、いよいよ来年からは女の子に回ってもらうかもしれないとのこと。少しづつ形を変えてでも是非この行事を続けたい行事だと思っている。

 お接待してくださるのは地元の方だが、もともと漁師さんの多い漁村なので、普段お付き合いのある農家とはまた赴きが違う。

 漁師さんが概して信心深く、私どもに対してもとても丁重にもてなしてくださる。
 体格のいい、武骨な男性方が一生懸命にもてなして下さる姿はは心温まるものがある。

 船で海へ出るということは常に危険ととなり合わせであり、難破したりすることも多かったのだろう。或いは豊漁か否かといったことも人間の知恵や技術だけではどうにもならないことが多かったのだろう。そのため漁師さん達は神仏を頼む気持ちが強かったのかもしれないと思う。

 祈念の後は村の公民館で食事をご馳走になる。
 料理は全て手作りであり、前日から準備が始まるという手の込んだもの。
 具沢山の巻き寿司、尾頭付きの海老、新鮮極まりない刺身、この地方独特の膾(なます)という料理、煮しめなどなど。いずれも素朴だが味わいがあり、特に漁村だけに海産物が豊富である。

 もっとも最近は世代交代でこうした伝統的な料理を作れる人も少なくなったとのこと。
 おそらくこうした行事があるからこそ、伝統の料理も伝えられたのだろう。

 年中行事も地域のご馳走もなんとか次の世代に伝えていきたいと願っている。