<美しき毒杯>美輪明宏

 【山寺の本棚】
 
 当山を開基した高岳親王在原業平の叔父さんにあたる方である。
 在原業平というのは源氏物語の主人公光源氏のモデルになったという説もあるくらいの美男子なので、同じ血筋を持つ高岳親王もやっぱり渋いイケメン系のオジ様だったのではないか…と言うのが法話のネタなのだが(笑)、光源氏は間違いなく元祖ビジュアル系という気がする。そして実在する芸能人の中での元祖ビジュアル系はどうも美輪明宏氏であるようだ。

 今でこそビジュアル系というのはもてはやされるが、美輪氏は戦争前後の時局下では大変な差別、偏見、非難を受けたそうである。
 時勢の激しい抵抗の中で次々と新しい分野を開拓していったバイタリティには驚かされる。
 この方くらい自分の嗜好、自分の思考、自分の信仰、自分の主張を物怖じせずに発言できる人物は少ないだろう。最近は江原啓之氏とともにスピリチュアル界のご意見番の趣きがある。

 最近、機会があって何冊か美輪氏の著書を読んだ。オススメは次の2冊である。

 「南無の会」※という組織をご存知だろうか宗旨、宗派を問わず、また宗教者であるか否かを問わず広い人材から講師をつのり講和会などの活動を長く続けておられる団体である。

 
    【南無の会http://homepage3.nifty.com/namunokai/index.html


 「ほほえみの首飾り」(水書房)はこの南無の会における美輪氏の講和集である。仏教的なことを中心にした分かりやすく面白い。

「愛の話 幸福の話」(集英社)は女性誌「MORE」に連載されていた記事に加筆、編集したものである。
女性雑誌に連載していただけに、特に女性にはヒントになることがいろいろあるのではないかと思う。美輪氏の著書は装丁や挿入されている写真などにも美輪氏の趣味が反映されていて楽しい。


 美輪氏は芸術家である。
 アーチストというより芸術家である、生活や生き方においても芸術を追求しているという点でも。

 私にとって芸術のもつひとつのイメージは<毒>である。芸術家の徹底した自己意識の追求と顕示。それは紛れも無い毒である。芸術に感動するとは芸術家の毒を煽るようなものではないかと思っている。むろんその対極に無色透明さや純真さを持った芸術も存在する。だが私の中の美輪氏のイメージはあくまで宝石を散りばめたアールデコ調の、黄金の美しい杯に盛られた毒である。

 正直言って三輪氏の嗜好や思考の中には受け入れかねるものも少なくないが(笑)生き方としてこれほど芸術を徹底しておられる方は少ないだろう。清濁併せ呑む器の大きさ、知性やユーモアや美意識など今の日本人の中に探して無いものを沢山持った方だと思う。
 随分沢山の著書があるが、その何冊かを読んだだけでもその毒に痺れること請け合いである。