三遊亭金馬「夢金」

 午前中は曇天。気温が上がらない。
 午後からは冷たい雨が降り始めた。

 午前の法事から帰ると母は台所で私の作務衣を縫いながらラジオで落語を聴いていた。
 志ん生のあと、金馬の「夢金」が放送された。

 寒い自分の部屋へ行く気がしなくて、夕飯の下拵えをしながら「夢金」を聞いたが、とても心に沁みる感じがした。
「夢金」の舞台は冬である。骨にしみるような寒さが語られるが、それを聴いている台所の窓の外からは絶え間なく雨の落ちる音が聞こえてきている。

 欲の深い船頭と侍のやり取りも素晴らしいし、人物や情景の描写も素晴らしい。「提灯の火が小ィさくなったら、提灯の底をコンッとひとつ叩いて下せェ、そしたら芯が落ちて火が大きくなりやす…」そんな会話の細部まで楽しい。

 厳冬の川を走る屋形船、客は訳ありげな侍と若い娘、金が欲しくてたまらない船頭…
 皆生き生きと眼に浮かんでくる。



 最近、ナイツの漫才が気に入ってよくYoutubeで看ている。
 ナイツの漫才は繰り返し見ても笑えるのだが、同じものを何度も繰り返して楽しめるという点では漫才より落語のほうに軍配が上がるだろう。

 いつもコメントを頂くかずぼうさんから小三冶のCDを貸していただき、最近よく聞いているが、落語には漫才ともちがう、なんともいえない滋味がある。穏やかでいて、さりげなく、それでいて洗練されている。そんな笑いである。

 「夢金」は聞き終わった後の、可笑しいような、哀しいような、それでいて爽やかな、そんな気持ちにさせてくれる話だった。
 寒い日は「夢金」に限ると思った…