河野宗寛「一禅僧の自伝」

【お知らせ】

本日、HPを少々更新致しました。ご笑覧下さいませ

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   【山寺の本棚】

 本山で修行僧としての生活が終わりに近づいた頃、バスで高野山に参拝に行った。
 分かりやすく言うと卒業旅行であり、本山からのご褒美みたいなものである。

 高野山真言宗にとっての聖地である。奥の院には今日も空海様が禅定に入られている場所である。

 奥の院に至る参道の両脇に無数の墓標が立ち並ぶ。その姿は壮観と言ってよい。
 大名家をはじめとする顕官貴人の墓所も多い。

 うっすらと雪の積もった参道を一団になって歩いている時、ひとつの墓標が眼に入った。
 ある禅僧の墓標だった。


 その方は終戦当時、満州におられたのだが戦乱で親を失った孤児300人を連れて日本へ引き揚げられたと記されてあった。

 団体行動だったのでそんなに長く墓碑を見ていたはずはないのだが随分長い時間その前に立っていた気がする。気が付くと泣いていた。

 自分一人生還することも難しかった状況で300人もの孤児を養い、庇って日本に連れて帰ることはどれほどの苦難であったろうか…想像することすら難しい。

 高野山で修行中の友人に尋ねたら、その方は河野宗寛という方で「一禅僧の自伝」という自伝もあると教えてくれた。

 本日、ようやくその本をアマゾンで入手した。私は熱血漢の姿を想像していたのだが、文体は実にさばさばと、淡々としていて、そこがいかにも禅家の方らしい。

一禅僧の自伝 (1970年)

一禅僧の自伝 (1970年)

 古書なのだが外箱のところが痛んでいる。ちょうど手に持つと掌が当たる部分である。
 この本を蔵していた方も繰り返し読まれたのだと思うとそのことも嬉しく思えた。

      
戦いに敗れし日より憂きことは親のなき子等さまよいあるく