漫画のスピリッツ  城アラキ・長友健篩「バーテンダー」の世界

【山寺の本棚】


「砂漠がきれいなのは、」王子様は言う。「何処かに泉を包み隠しているからだ。」
                           サン・テグジュペリ「星の王子様」

バーテンダー 1 (ジャンプコミックス デラックス)

バーテンダー 1 (ジャンプコミックス デラックス)

喰わず嫌いはよくない。自分で世界を狭くしてしまっている…そんなことを考えた。

昨日、「バーテンダー」(集英社)という漫画を5巻まで読んでとても面白かったのである。
本書はよくあるグルメ系ウンチク漫画だと読まずにいたのだが、読んで見ると実によく出来た漫画だと感心してしまった。
仕事への情熱、お酒への教養と愛情、人生の哀歓、矜持と挫折…それでいてドロ臭くない。

日本の漫画のひとつの特徴というのは作品の中に<知識>というものが取り入れられている点ではないかと考えている。この作品も酒とバーにまつわる<知識>が取り込まれることで世界に深い奥行きが出来ている。

私はこうした作品の原型を作ったのは手塚治虫の「ブラックジャック」ではないかと思っている。プロフェッショナルを主人公とする1話完結のスタイルである。作品世界には専門的知識が縦横に盛り込まれている。

漫画の中心には<物語性>がある。そこに<知識性>が加わるというのはどういう意味があるのだろうか?

<知識性>は虚構の作品世界に強い現実感を与えることができる。
ところがこの<知識性>が過重になると、ただ<知識>を語ることが作品の中心になってしまう。或いは作品の細部だけが鮮明で<物語性>そのものが脆弱になってしまう。

<知識性>に釣り合うだけの<物語性>。<物語性>に釣り合うだけ<知識性>。このバランスはとても難しいのだろう。

<物語性>の中心は<驚き>や<感動>ではないかと思うのだが、<知識>を重視すると<知識>に埋没して、<驚き>や<感動>の無い作品になってしまう。

バーテンダー」は豊かな知識と物語の感動という2つのバランスが心地よい良い作品である。優れたカクテルが優れた配合に依るのとよく似ている。


バーテンダー公式HP】http://sj.shueisha.co.jp/contents/bartender/

この作品は主人公の成長の物語であると同時に、客のために至高の酒を作ろうとするバーテンダーによって人々が癒されるという物語である。この世界のどこかに自分を癒してくれる人間がいるかもしれない…その想像は私達の心を泡立たせ、この作品をへと駆り立てて止まないのである。
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