代表作は「なし!」

【山寺の本棚】

昨日はみぞれが降り、身体に沁みるような寒さだったが、今日になって少し気候が緩んだ。もう雪が降ることもないだろう。雪が溶けて屋根を落ちる音に重なってホトトギスの声が聴こえる。

アマゾンで注文していた福本清三「どこかで誰かが見ていてくれる」が届いたので少しパラ読みした。
…実に面白い。帯にはこう書かれてある。

斬られ斬られて43年!
出演回数2万回代表作は「なし!」
そんな大部屋俳優のひとりごと


京都のお寺というのは時代劇に撮影によく利用される。

住職も東寺で修行していた頃、よく東寺で撮影がありエキストラをやっていたそうである。
住職は「美空ひばりの映画にも出たことがある」とちょっと自慢していた。エキストラになるとパンが2個貰えて、食糧難の時代にはとても嬉しかったそうである。

いま少し関心があるのが日本映画の歴史である。

日本の映画が黄金時代を迎えていた頃のスタッフの技量は世界でもトップクラスだったと言われる。東映の全盛期には一ケ月に10本も映画を製作していたという。東映フライヤーズというプロ野球のチームまで抱えていた。大部屋俳優と言われた人達が400人以上いたそうである。それが現在は僅か20人…
福本清三氏は日本映画の盛衰を見てこられた方であるから、その内容は無類に面白い。


「人生の主役」という言葉があるが、人生で成功するというのは<主役>の立場に身を置くことを指すことが多い。
だが脇役に徹してこられた福本氏の言葉にはなんとも言えない重みと深さがある。
人生の主役になるとはこの重さと深さを人生の中で達成することなのではないか…とふと感じた。


重さと深さを知るために、人に評価されてばかりではなく、評価されないという経験も必要なのではないかと感じられる。

最近はものすごくストレートに「有名になりたい」「お金持ちになりたい」という人が増えた気がする。
人生に前向きであるのは素晴らしいが、そうした生き方に少し違和感を覚えることがある。

では有名ではなく、お金も無い人生は価値が無いのか…

この本の体裁はインタビューをそのまま文章に起こしたものである。眼の前に福本氏が居られて話をされているような雰囲気が伝わってくる。
福本氏の言葉を聴いていると福本氏が淡々と、優しげにそんなことは無い、脇役でも素晴らしい人生だと語りかけてこられる気がする。

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