家族というスピリチュアルな共同体

【今月の「寺門興隆」】【山寺の本棚】

NHK落語名人選(5) 三代目 三遊亭金馬 孝行糖・薮入り

NHK落語名人選(5) 三代目 三遊亭金馬 孝行糖・薮入り

立川談春の「赤めだか」を読んだら落語を聴きたくなった。

手元にあった金馬の「薮入り」を聞いていたら、最初の親子の対面のところで泣きそうになった。子供ができてからこの手の話には弱くなったので自分でも可笑しくなることがある。

金馬は無骨でぶっきら棒な男がとても上手い。粗野な男が一生懸命、子供を可愛がっている姿が彷彿とするようである。

年端のいかない子供が学校にも行かず、奉公に出され、三年も家に帰れない…今日では考えられない話であるが。時代の厳しさとその中の親子の情愛を想うと格別なものがある。




今月のお坊さん専門誌「寺門興隆」(興山社)は読み応えがあった。

別冊の篠原鋭一氏の「在俗の説法者」は毎回、感動的な話があって楽しみにしている。

この「在俗の説法者」は単行本になっている。オススメです。

みんなに読んでほしい本当の話―おしょうさんも泣いた25の生き方

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みんなに読んでほしい本当の話 第2集

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高野山大学準教授の井上ウイマラ氏のスピリチュアル講座も面白い。

井上氏は曹洞禅とテーラワーダ仏教を修めた方で心理療法や呼吸法、瞑想法の指導を行っておられる。

やさしいヴィパッサナー瞑想入門

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【ようこそ!井上ウイマラの瞑想空間へ】http://www.geocities.co.jp/Beautycare/8365/

高野山大学スピリチュアルケア学科があることを知っている人が少ないが、高野山大学が宗教と社会の接点としてスピリチュアルケアというコンセプトを掲げたことは評価していいだろう。

今回は「親が子に伝える心」という話である。

スピリチュアルケアの現場にいて感じることのひとつは、スピリチュアルな問題として取り上げられる事柄の七〜八割は家族に関する問題ではないかということです。
ここで家族というのは、主にその人の両親、祖父母、曽祖父を含む三〜四代にわたる家系です。その家系の誰かが体験した悲しみや憎しみなど強烈な感情体験の中で、誰にも語られなかった情動のエネルギー・パターンが無意識のうちに世代間に伝達され、その人の生き方の構えを形作ってしまう現象があるように思えてくるのです。もちろん、喜びや生きる智慧など、良いエネルギー・パターンの世代間伝達もあります。それはその人の健康の土台を作り、苦しみや困難を成長のチャンスへと変容させる構えとなります。
スピリチュアルケアとは、苦しみの悪循環を解きほぐし、良い循環を切り開きながら生き抜いてゆく人生の構えであるといってよいのかもしれません

(中略)

こうしたパターンの伝達に関して、心理学者のユングは一九七〇年にアメリカのクラーク大学で行った子供の心理学に関する講演の中で、ファミリー・コンステレーション(家族布置)という概念を用いて説明しています。コンステレーションとは、もともと星座を意味する言葉ですが、その人の感じ方や考え方がどのように配置されているかというパターンという意味で心理学では「布置」と呼ばれています。家族布置とは、人は生まれ落ちる家族という星座の影響を受けて成長する運命にあるという概念なのです。
(スピリチュアル講座8「親が子に伝える心」)

井上氏の言葉を翻案すれば<個人の運命>と深くかかわるものとして<家族の運命>を説いておられることになる。仏教的には「家族の因縁」といえるかもしれない。

家族というのはスピリチュアルな観点からとても強く、複雑に結びついているということであろう。

戦争中に亡くなった兵士の家族が亡くなったのと前後して何らかの兆候を受け取ったといった話は枚挙に暇がない。
これは家族が結びついていることのひとつの証左といえるかもしれない。

仏陀出現のメカニズム―拡大せし認識領界

仏陀出現のメカニズム―拡大せし認識領界

山口修源師の「仏陀誕生のメカニズム 拡大せし認識領界」(国書刊行会)※に「運命分析学」を提唱したレオポルト・ソンディに関する一節がある。

ソンディは「家族的無意識」を概念化した心理学者である。「家族的無意識」はユングの「集合的無意識」とフロイトの「個人的無意識」を架橋する、中間的存在である。
日本的には「親の因果が子に報い」ということであろうか。大変興味深い内容である。

言い換えるなら私たちは家族という大きな課題を与えられてこの世に生まれたということかもしれない。課題をクリアすることこそが今生での目的のひとつといえるかもしれない。

それはアル中の父親かもしれないし、とんでもない悪妻かもしれない、引きこもりの息子かもしれないないし、早逝した愛児かもしれない。

そうした家族とのかかわりの中で怒りや悲しみや諦観や苦悩や絶望を体験する。

それらをひっくるめて家族というのはスピリチュアルな共同体なのだと思う。

その課題をきちんと解いて見せなさいと大きな存在がしずかに微笑んで私達を見ているのかもしれない。


※ 本書の第七章で説かれている自観法という瞑想法は仙道の特殊な内観法に現代心理学を援用して発展させたものでコンプレックスの解消など、人間の意識を改善するうえで極めて有効である。本書の内容は哲学から科学まで多岐にわたっており極めて難解であるが一読をお勧めする。

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