雨の法隆寺 その2 百済観音を遥拝
画家の北後美智子先生(旧姓 多禰美智子)から法隆寺に絵画を奉納する式典が行われるというご連絡を頂いた。
北後先生からは丁重は招待状が送られていたのだが、いろいろ手違いが重なって招待状が山寺に届いたのは私が出発した後だった。
最初は改良服で出かけようと思ったのだが、和装での長旅は疲れるので作務衣にした。
法隆寺を訪れるのは7年ぶりである。
式典の1時間以上前に法隆寺に着いたので伽藍を散策した。
広大で荘重な伽藍に圧倒された。よく見ると沢山居られる職員さんも作務衣姿である。急に来賓?が作務衣で来たのはマズイのではないか…少し心配になったところへ母から電話があった。
「管長さんや執務長さんも来られるみたいだけど、ちゃんと正装で行ったわよね?」
「…今更…遅いですよ…」
あきらめて伽藍を散策した。
土塀がどこまでも続く風情は古代に居るような錯覚を覚える。
平日で雨天なのも幸いして人影も少ない。これ本当に有難かった。大勢人が居ては心が落ち着かないからである。
ツツジが盛んに咲いていた。
土塀や新緑に映えて眼を洗われるようだった。
寺宝の数々も素晴らしい。
近年は文化財保存のために照明が落としてあるそうである。
そのため玉虫厨子などは表面は黒一色に見えて細かな文様は殆ど判別がつかない。
せめて詳しい説明か再現図を添えてほしいところである。拝観者の中には小さなライトを持参して照らして見ている方が多い。
百済観音に圧倒された。
拝観者が少ないので本当にゆっくり拝観できたのは返す返すも有難い。
雨の平日というのは案外仏像の拝観には良いかもしれない。
百済観音とうのは一種異様な感覚を受ける仏様である。
私たちが宇宙人と対面したらこんな印象を受けるのではないだろうか。
正面を外して斜めから見ると衣の美しい線や水瓶を持つ手の美しさや光背の美しさが一斉に眼に飛び込んでくる。
眼の前にあるのは実はロケットで高速で上昇しているのではないか。そして私も同じスピードで上昇しているのではないか。
そんな感覚が生じた。この仏様を見ていると微動だにされない仏様からそんな垂直感や飛翔感が生まれるのである。
百済観音様は確か昔は古びたガラスケースの中に居られたが、現在収蔵されているのは技術の粋を凝らした近代的な収蔵庫である。収蔵庫の現代的な感覚とこの百済観音のもっておられる現代的な感覚が不思議に調和している。
古仏でありながら現代以上に現代的である。この感覚は一体何なのだろうかと思う。
本当に心引かれる仏様である。
新しい収蔵品で惹かれたのは平成に作られた玉虫厨子のレプリカである。
一部には実際に玉虫が使われていて、往時の姿をしのばせる。
それにしても百済観音は作られた当時は一体、どのようなお姿をされていたのか非常に心引かれるものがある。
収蔵庫の職員さんが拝観の方に説明しているのが耳に入った。
この法隆寺に所蔵されている品々はいろんなお寺から持ってこられたというのである。
お寺が廃寺になったり、伽藍が維持できなくなるとこの法隆寺へいろんな仏様が持ち込まれたという。
したがっていろんな時代、いろんな宗派の仏様がこの法隆寺におられるのだという。
かの百済観音も法隆寺にはっきりした記載がなく、いつの時代かにこのお寺にもたらされたのだという。
この世界的な仏像は誰が、何のために作り、どのような経緯でこの法隆寺にあるのか不明なのだという。
その謎もまたこの百済観音に魅力を加えている気がする。
絵画奉納の式典といってもごく簡単にお披露目があってお茶でもよばれて1時間くらいで帰る予定だったのだが。そんな簡単なことではなかった。
私以外の来賓は皆さん正装…
某本山の宗務総長氏などはちゃんと法要袴まで穿いておられて、随行員まで従えておられる。
かたや私は
かなり肩身が狭かったです…
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法隆寺の話はもう少し続きます…