幽霊の正体

幽霊の正体 (別冊太陽―日本のこころ)

幽霊の正体 (別冊太陽―日本のこころ)

大学生の頃、図書館で広げた本に、心が痺れるような感動を覚えた幽霊画が載っていた。

20年以上経ってもそのことを忘れずにいたのだが、たまたま中古書店平凡社の「幽霊の正体」という雑誌を見つけた(『別冊太陽 No98』)。

パラ読みしてみると、果たして、その一枚が載っていた。
月岡芳年(つきおかよしとし)の幽霊図(慶応義塾大学図書館蔵)である。

長い髪の女の幽霊が後ろ向きに立っている。顔は見えない。
死産したらしい赤ん坊を抱いていて、赤ん坊のか細い脚が見える。
表情が見えないことで一層、その余韻が深まるような作品である。

本書には100枚余りの幽霊画が掲載され、作家や識者の文章が添えられているが、他には鰭崎英朋の「蚊帳の前の幽霊」(全生庵蔵)や河鍋暁斎の「幽霊図」(ライデン国立民族博物館蔵)も良かった。

現代のホラーを見慣れると、こうした幽霊画が全く別の魅力を感じることがある。
陰影や哀感が何とも言えない空気を漂わせている。


冒頭に載っている高橋克彦氏の「幽霊の正体」という短文が面白い。

いつの間にか小説を読まなくなって久しいが、高橋氏のホラー小説は独特の味わいがあったことを思いだす。
高橋氏は幽霊の実在を全く信じていて、この「幽霊の正体」というのはその原点になった体験が書かれている。

幽霊譚としては決して珍しいものではないが、自分の体験を素直に信じている姿に共感を覚える。

夜の闇が失われると幽霊も説得力を失っていくように思える。

昔の幽霊は三角形の紙を額に付けていた。
地元の古い葬式では紙冠(しかん)と呼ぶが、地域によっては額紙(ひたいがみ)とか紙冠(かみかぶり)と呼ぶそうである。

(この三角形は修験道の山伏が山入りする時に魔よけとして被る頭巾(ときん)の形が三角形であることとも関係があるらしい。)


現代の日本人は死というものに対してどんどん無機的になっていく気がする。
古い幽霊図をみると、かっての日本人が死に対してもっと深いなにかを蔵して生きていた気がして、懐かしさのような感情が湧くことがある。

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