合理と不合理の間 「死後体験」「ブッダ 伝統的釈迦像の虚構と真実

一個人 (いっこじん) 2011年 03月号 [雑誌]

一個人 (いっこじん) 2011年 03月号 [雑誌]

雑誌「一個人」の最新号を買うか買うまいか迷っている。

今回はお釈迦様を中心とした原始仏教の特集なのである。
奇麗な写真に釈尊の言葉がちりばめられてなかなか魅力的である。
各種の雑誌でお寺や仏像の特集が絶えないが、とうとう原始仏教が取り上げられたか…と嬉しいようなうれしくないような不思議な気持ち。

「臨死体験」を超える死後体験―米国モンロー研究所のヘミシンク技術が、死後の世界探訪を可能にした!

「臨死体験」を超える死後体験―米国モンロー研究所のヘミシンク技術が、死後の世界探訪を可能にした!

昨日、取り上げた「死後体験」の帯にはこんなことが書いてある。

ヘミシンク技術とは?
ロバート・モンローが開発した音響技法で、左右の脳半球を同調させ、脳を「集中した全能の状態」へと導き、人間の意識を覚醒状態から変性意識状態へもっていくことができるというもの。
こうなると、意識が肉体から離れた状態(体外離脱)も、さらには死者のとる意識も可能となり、死後の世界も自由に探索できるという驚異の手法。

「死後の世界も自由に探索できる」というのは言いすぎでしょう…
著者に悪意は感じない。むしろ探求心旺盛な印象を受けるが、本書を読んで(かなりの関連書が出版されている)ヘミシンクを真に受けてしまう方のいるのが心配。(何しろ死後体験どころか過去世に遡ったり、地球外の知的生命体に遭遇したりする体験が述べられている)


ちなみに本書の最後のほうに著者は自分が過去世において中国の高僧であり悟りを開いた…みたいなことが書いてあるが、悟りを開いたら転生しない可能性大ですよ(笑)



対象的なのは宮本啓一氏の「ブッダ 伝統的釈迦像の虚構と真実」(光文社文庫)。

最初に素晴らしいと思ったのは著者が様々な手法で瞑想法に通じ数え切れない三昧体験をされたという点である。お釈迦様は苦行後の瞑想によって悟りを開かれたわけであるから、釈尊や経典を研究する人々はもっと瞑想や座禅を体験すべきであろう。
瞑想せずにお釈迦様について研究するのは、フランス料理を食べたことがないのにフランス料理のレシピだけを研究している人みたいなものである。

宮本氏は釈尊にまつわる様々な伝承を合理的に解釈されている。

例えば悟りを開かれる前に「悪魔」が出てきてお釈迦様の邪魔をする。

こういった「悪魔」とは出家に対して反感を抱いている一般人ではないかと推察している。
つまり「悪魔」が邪魔をするというのは実在の世俗の人が修行の邪魔をすることをさしているのだというのである。なかなか面白い解釈である。
他にもお釈迦様は直腸ガンで亡くなってのではないか等々合理的な解釈が連ねられている。

原始仏教を賞揚する方は大乗仏教を否定する場合があるが、著者もかなり手厳しい。

竜樹、無著、世親、陳那、ダルマキールティ、カマラシーラ、パドマサンバヴァなど大の乗系の高僧を挙げて、仏にもなっていなし、涅槃に入ってもいないと断じる。
空海も、道元も然りで

「結局、大乗仏教で仏になった、涅槃に入ったという人物はひとりもいないのである」

とバッサリ。やれやれ…

合理的解釈は魅力も感じるがそこまで言ったら言い過ぎじゃないだろうか。(空海様と道元様はどう考えても悟りを開いた方だと思っている)

原始仏教を語る人は釈尊やその弟子達の中に勝手に大乗仏教を否定するイメージを作り上げているような気がする。

仏教に関する伝承の中には合理的解釈からはみ出す部分はいくらでもある。

例えば十大弟子の一人で教団の主導的立場にあったマウドガリヤーナ(目連)は「神通第一」と言われた、おそらく神通力といった秘蹟を示したのだろう。そしてこうした神通が教団の拡大にかなり大きく貢献したことは容易に推察される。また神通のあることが高く評価されたに違いない。釈尊自身もこうした神通を示した記述がいろんな仏典に記されているが、原始仏教を持ち上げる人々はこうした部分にはあまり触れたがらない。

不合理なものを自分の感覚のままに肯定するのも、合理的なものをひたすら求めて伝えられた事実を認めないのもどこか不自然で違和感がある。

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期日は10月23日(日)。主催は舞鶴東仏教会です。詳細が決まりましたら、当ブログにて告知を行います。

[決定版]生きがいの創造

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