四十五年前のふかし芋   「ザ・パシフィック」

今年こそは徹底的に大掃除して新しい歳を迎えたいと思うのだが遅々として進まない…


それでも本日は3時間ほど掃除に費やす。


降雪が思ったほどではないので一安心。


明日は今年最後の不動講である。








お坊さんの専門誌「寺門興隆」の前身はその名も「月刊 住職」。



書類を整理して不要なものを処分していたら、「月刊 住職」の頃の記事をコピーしたものが出て来た。いつ頃の記事なのかの記載は無い。多分10年以上前の記事だろう。


当地の真言宗寺院松尾寺(西国観音霊場二十九番札所)の名誉住職である松尾心空師が寄稿された記事である。


タイトルは「法話は音楽のように(2)」。


心空師は法話の名手として全国より法話、講演の依頼が引きも切らない名士である。


師が法話の要諦を述べられた連載記事の一部である。


近年、瀬戸内寂聴氏を始めとして法話、講演の名人とされる仏教者は多いが、松尾師は分分かりやすく、ユーモアと知性、情意を供えた法話の先駆者であるといえるのではないかと思っている。


その記事の中に「四十五年前のふかし芋」というエピソードがあり、良いお話だと思って、時々読み返していたのだが、ここに転記させて頂いて備忘とすることにした



昭和六十二年九月、私は新潟の、全く知らぬ小林孝という方から便りを頂きました。文面は、大方次のようであります。
 私は、昭和十七年一月十日、舞鶴海兵団に入隊した。二月末の雪深いある日、松尾寺まで行軍、上官から何分の指示あって暫時休憩ということになった。ところで、戦争の激化と共に物資も次第に窮乏を告げ、金はもっていたが、食物を分けてくれる家とてなかった。こうしたひだる腹をかかえた新兵十人ばかりがたむろしている所へ、本堂から少し道を下ったところの農家のおばさんが、ひょこり顔を出して、「兵隊さん、お芋を食べませんか」と声をかけてくれた。我々一同、得たりかしこしとばかりその家に入り、土間におかれたふかし芋をまたたく間に食べ尽くしてしまった。
 ところが、その家の女の子が、芋が空になったざるを指さして、ワッと泣き出した。ああ悪いことをした、まずこの子が食べたい芋だったのだ。無事除隊できた暁には、必ずこの子に送り物をしようと固く誓った。爾後ラバウルに転戦、予期もせぬ敗戦、そして御多分にもれぬ戦後の生活難。今は脳梗塞を患う身で、とてもあの山道を上ることはできぬ。しかし、あの子に送り物をと思ったことは、いまだに忘れずにいる。既に四十四年になるが、信濃川流域でとれた二十世紀の梨を送るから、もしその家があるなら、是非届けてほしい。万一家が絶えていたらお寺の仏前に供えてもらって結構です。
 というのでありました。
 当時の家族構成をたどり、手紙に付されていた略図も照合しますと当地の谷口家であり、芋を提供したおばさんは、当時五十一歳で、谷口わきと申しましたが、残念ながら一昨年、九十三歳で亡くなっております。泣いた娘さんは当時十歳の芳枝さんで、今は孫をもつ身になって谷口家を継いでいることを伝えたところ、早速、立派な梨が送られてきたのであります。
 さらに二年後、山道は車で上がれることを知った小林さんは、知人の車に乗って来山、そして谷口わきさんの位牌と涙の対面を果たされたのでありました。
烏兎匆々、四十五年の歳月を経ての、ふかし芋に対する報恩謝徳の小林孝さんの思いこそは、現代もっともあってほしい暖かい心づかいではありますまいか。
             


              松尾心空「法話は音楽のように(2)」より
                   (<「月刊 住職」掲載時期不詳) 




個人的注釈を少々。

「烏兎匆々」は月日の経つのが早いこと。


 ラバウルパプアニューギニア領ニューブリテン島の都市。

 大戦中、日本軍9万人が駐留。南方における一大拠点として堅固な要塞と化していた。
 連合国は反攻にあたり頑強な抵抗の予想される当地への攻略を行わず、包囲するにとどめたため終戦まで日本軍が保持した





【通常版】 THE PACIFIC / ザ・パシフィック コンプリート・ボックス [DVD]

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 DMMに予約した「ザ・パシフィックvol.1」が早くも届いたので早速観る。

一時期、日本は太平洋上に広大な版図を保有していたが、南方に関する知識が殆ど無いことに改めて気付いた。

ラバウルも小さな島だと思っていたが、調べたら日本軍が9万人も駐留した一大要塞だったと知って少し意外だった。



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