謎のラーメン

子供の頃、私達兄妹にとって幾つかご馳走と呼べる食べ物があった。
そのひとつは店屋物のラーメンであった。
来客があって母親が私達に食事を作る暇が無い時など、特別な時だけその店のラーメンが食べられた。

確かに美味しかったという記憶がある。
太めの麺としっかりした味のスープ。そして分厚いチャーシューが乗っていた。
スープがこぼれないようにサランラップをラーメンの丼に被せ大きめの輪ゴムのようなもので留めてあった。輪ゴムをはずすのにコツがいった。外れたサランラップは湯気とスープで濡れて使い古しのシャーワーキャップのように見えた。

今でも不思議なのはそのラーメンが一杯800円もしたという記憶があるのである。

 普通のラーメンなら600円くらいが今日の相場だろう。ところが私達が子供の頃というと20〜30年は前の話である。

 今日の値段なら一杯1500〜2000円くらいだろうか…どう考えても高い。高すぎる…
 お店も何の変哲も無いといっては失礼だが、どう考えても町の中華屋さんである。


 この山寺に帰ってくるまで20年余り故郷を離れていたが、この山寺で暮らすようになってから、車で駅のそばを走っていて、まだその店が営業しているのを見かけた。

 その店の横を通る度にその店に入ってみたい気持ちが起こる。
 その店のラーメンは今でも800円もするのだろうか。そしてその味はどんなものだろうかと想像する。

 おそらく店主も代替わりしていて同じラーメンが食べられという保障は何もない。何より全てが分かってしまうのも少し残念である。なんとなくもやもやした、不思議で懐かしい気分というのを楽しんでいる。